暑さも和らぎ、だいぶ涼しくなってきた。秋だ。
「…母さん」
母さんが眠る、墓の前に佇む。目を閉じればすぐにでも、瞼の裏に笑顔を思い描けるのに…あの温もりはもう返ってこなかった。
午前中に家族と墓参りはすましたが、午後にまた来てしまった。
「受かったよ。春から、ついに教壇だ」
採用試験に受かり、ようやく夢が叶った。色々セミナーとか準備とか、引っ越しもある。これから忙しくなるなーなんて思いながらも、色々思い描くことにより口元が緩む。
「あとさ」
ぽつぽつと、手を合わせながら言葉を落としていく。返事はない。
「好きな、奴がいるんだ」
本人はもちろん、誰にも言えなかった想い。口にしてしまえばもう、涙となって溢れ出してくる。好きで好きで、本当に好きで。男だとか違うとか、そんなんもう関係なくて。一人の人間として、アイツが好きだった。この間飲み屋で女の子と歩いていたし、彼女なのかもしれない。ふわふわしていて可愛い子だった。
「…連絡しなきゃな」
今日こそ、今日こそ、とは思っていた。連絡しないと、と。だらだらこの関係を繋げていくわけにはいかない。春から少し離れた場所で暮らすことになる。これを機に、昇華してしまえればと、想いを。
誰かの足音が聞こえる。お盆も終わったから、誰かいるの珍しいな、なんてちらっと振り向いた。
「…栄口?」
「、すや」
ま と続ける前に、彼が走って俺のすぐ傍までやってきた。ああ、ただ会っただけなのに視界がぼやける。
←→
目次へ