「巣山の退職をお祝い…ってのもおかしいよな。何て言えばいいんだ」
「お別れを祝して?」
「お前らはどれだけ俺の転職が嬉しいんだよ」

悪い悪い、なんて言いながらも楽しそうに笑う同僚。研究室の人達に大学へ戻る、と話したら「そうか」とだけ告げられた。予想はしていたし別に何の期待もしていなかったから、荷物まとめてサヨナラしようとした。そしたら営業の同期達が「お別れ会やるか」と提案してくれた。近場のチェーン店での小ぢんまりしたものだが、嬉しい。

「巣山くんから恋バナ聞けなかったなあ」

途中手洗いに立ち、出てきたら篠岡と一緒になった。店員や客で入り乱れる店内を、ゆっくり並んで進む。

「だーから、そんなんじゃないって」
「えー、ほんと?」

くすくす、と小さく笑いを溢す篠岡。

「色々世話になって、サンキューな」
「うん、こちらこそ」

気さくに話しかけてくれる皆と離れるの、今更ながら少しだけ寂しい。

「す、やま?」
「っ」

席が近くなってきたら、近くの席の暖簾が上がった。中から人が出てきて、目が合う。驚いたように目を開いたその人は、泣きそうな顔をして俺の名をゆっくりと呟いた。

「篠岡、ちょっと先に席戻ってて」
「…うん」

彼女は何かを察していたのか、何も聞かずに栄口へ会釈しながら自分の席へと戻っていった。

「…あー」
「え、と」
「…」
「…」

生ひとつー!ありがとうございましたー!という声が響く。ここじゃ駄目だな。俺は栄口に歩み寄って告げた。

「今、ちょっと職場の奴らと飲んでてさ」
「…俺は、同級生と、二人で…」
「…」

同級生と、二人で。俺の顔と席の方をちらちら見ながら栄口は言った。変な感情が湧いてきて、俺はそれを隠すように言葉を探しながら続ける。

「話したいこと、たくさんあんだけどさ」
「…うん」
「今度、連絡するわ」
「あ、」
「え」
「…俺から、してもいい?今ちょっと色々立て込んでてさ。ゆっくりしたら連絡…すんね」
「…うん、待ってんな」

好きだ、と告げてしまいたかった。




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