「ありがとうございました」

一礼して部屋を出る。出てトイレまでスタスタ歩き、個室の扉に寄りかかって大きく深呼吸をした。手が震える。緊張はしたけど、それよりも気力が勝っていたのかもしれない。今更になってガチガチしてる。

「…ふう」

頑張ろうと決めて、今まで以上に頑張ってきた。二次試験も頑張った。あとは結果を待つのみだ。一月ちょっと発表まであるけれど、それまでも仕事に励まなければならない。ようやく、解放される。今日はどこかで飲んで帰ろうかな。

「…」

あの日飲んでから、一度も姿を見ていない。連絡もとっていない。だけど、忘れた時なんて一度もなかった。巣山に、夢を叶えたと胸張れる自分に会いたくて。だから頑張れたのかもしれない。

「すやま」

携帯で名前を検索する。アドレスと電話番号が表示されて、胸が震えた。こんなに、すぐ近くに、あるのに。いるのに。会えなかった期間短くて、でも出会ってからの期間も短くて。すぐ壊れてしまいそうだ、と思った。携帯をポケットにしまう。

「駄目だなあ」

自分はこんな男じゃなかったように思う。消極的な中にも、もっとはきはきした自分がいたような気がしていた。こんなん、アイツに対してだけだ。
もう一度携帯を取り出す。高校時代の友人の名前を検索して発信させた。

「あ、阿部?」

懐かしい名前を呼んだ。

「今日暇だったら、飲み行かない?」

「あー、いいよ。どこ?」という言葉を聞き、俺は駅前のチェーン店の名前を伝えた。




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