甲子園が始まって、あの日二人で観た高校は二回戦で負けてしまった。そこに勝った高校は初出場で、あれよあれよという間に勝ち進み、ベスト4。勢いあるとこって進むんだよな。最近では下克上と話題になるのも珍しくない。甲子園も、あっという間に終わってしまった。

お盆休みに実家へ一日帰ったら、全てを見透かされたように「自分の好きなように生きなさい。たまに顔見せてくれたらそれだけで嬉しいからさ」と母に言われた。好きなように生きなさい。それは簡単なようで難しい。今、大人になってしまったから。

「俺、あれからなかなか、この薬の研究にしか興味無かった気がするんですよね」

隣にいる先生は、熱燗をお猪口で飲んでいるため眼鏡が曇っていた。

「うん、そうだね」
「…大学へは、講師として、呼ばれるわけじゃないですか」
「相変わらず巣山はカタイね。講師はおまけみたいなもので、あと勝手に研究しろと。で、教授の助手も。みたいな感じだろう」
「はあ」
「…声をかけてくれたから、いい返事を期待していたんだけどなあ」

アスパラの串カツをかじる。熱い。俺は少しの沈黙の後、アスパラを飲み込んで言葉を続けた。

「そうです。受けようかな、って思ってます」
「投げやりだなあ」
「そんなんじゃ、ないですよ」

アイツに会わなくなって半月以上が経った。元々出会ってそんなに経っていないのに、心に、日常に、ぽっかりと穴が空いてしまっていた。それだけアイツの存在が大きかったのだと、朝電車に乗る度思う。

「まあ今日は、前向きな言葉が聞けたからよしとしよう。うん」
「はあ」
「もうすぐ命日なんでしょ」
「…」
「それまでに、返事決めとくように。いいね」
「…はい」

そうか、もうすぐあの人の命日なんだ。




目次へ


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -