「乾杯」
「かんぱーい」
カツン、とジョッキを合わせてビールを流し込む。いつも何を話しているわけでもない。ただくだらない話や世間話を一緒にして、それだけで楽しい。泣きそうになるほど、巣山が好きだと、思う。
「すみませーん、生中おかわり!」
はーい、という店員さんの声を聞き俺は残りを一気に流し込んだ。
「栄口」
「ん」
「大丈夫か?」
教員採用試験、一次試験を突破した。筆記試験も面接も機転をきかせてうまくいったと思う。二次試験は面接だけ。今日飲んだら試験終わるまで酒を飲まないと決めていた。そして。
「当分酒飲めないし…巣山にも、会えない、から」
試験に受かるまで、巣山に会わないと決めた。電車も車両をずらす。時間さえ変えるかもしれない。大好きで大好きで、楽しいけど。だけどその想い抱えたままじゃ集中できなくなりそうで、怖い。一次みたいにうまくいくか分からない。だから距離を置くことに決めた。
「え」
「ちょっとさ、事情があって…だから」
「…」
「今日は、楽しもう」
ビールがくる。巣山もおかわりを頼む。美味しい、寂しい。色んな思いがぐちゃぐちゃになって、でも巣山は踏み込んでこなくて。
巣山に、胸張って報告できるように頑張りたいんだ。近づきたいんだ。
二杯目のビールは少し、しょっぱい気がした。
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