「あ」
昼食前に手を洗い、ハンカチで拭こうとしたら一枚の紙にぶつかった。濡らさないよう、慎重にハンカチを取り出す。乾いた手で名刺を取り出した。
「…」
何回か車両で見かけていたが、今日はやけに具合が悪そうだった。朝早い車両にご年配の方が乗ってくる可能性は低く、俺はうとうとしながら座席に座っていた。
目の前に具合の悪そうな見知った男性が現れればそれは、ああするしかなかったと思う。
考えていなかったのはその後。何も気にせず、さっと帰ろうとしたのに。彼は律儀だった。
「連絡、した方がいいよな」
彼のことをきちんと知っているわけではないが、連絡しなければこれから彼は車両を探すと思う。俺を見つけ、今度はもっと大層な例をされそうだ。
「…うん」
一杯くらいご馳走になっても失礼ではないだろう。もし二件目に行くとしたら持てばいい。
「はあ」
俺は溜め息を吐いた。人を律儀だと言いながらも、自分の律儀さに気付き苦笑する。
気持ちとして借りを作るのは好きじゃない。
とりあえず連絡をしようと、俺は携帯を出した。
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