「これはメリットとデメリットがはっきりしているからなあ」
「プロドラック、大丈夫か」
「そうですね…」

薬学部を卒業し、薬剤師の資格を取った。国家試験は難しかったけど、興味のある分野だから楽しかった。
近くの病院や大学から声をかけられたけれど、自分から決めて進んだ研究の仕事は色々苦労もある。でもやった分結果が出れば報われる。

「巣山くん」
「お」

研究室のガラス越しに、篠岡から呼ばれて振り向くと、見知った人が隣に立っていた。

「志賀先生…!!」
「やあ巣山」
「今日はどうしたんですか」
「いやあ、大学の方から行ってこいって言われてね」
「え」
「まだ、教授は諦めていないらしいよ」

志賀先生は学生時代お世話になった助教授。専門的な知識も豊富で、様々な現場で培った技術もすごい。考えもしっかり持っているから何度か酒の席で色んな話をした。

「大学に戻ってこないか、巣山」

言われるんだろうなと思っていた言葉が脳に伝わり、返事をしないまま横目で研究室の中を見ると、真剣に薬品と向き合う同僚達。俺のことには関心ないみたいだ。

前まではそれで良かった。研究の皆は真面目で、プライベートのことにはあまり触れてこなかった。他の部の知り合いは色々聞いてきたりもするけど、そんなに会う機会が多いわけではない。それなりの付き合いをして、家に帰ってビール飲んで寝る。充実しているつもりだった。でもアイツにあってから、この淡々とした生活もいいけど、違う道もやってみたいと思い始めた。

「お前が前から言っていたやりたい研究も、やらせてやれる」
「…」

だけど、今のアイツとの毎日を手放したくない。そんなことを考えたらすぐに返事はできなかった。




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