「お、チャンスで四番か」
「打率三割いってるし、期待できるね。でもツーアウトだから外野に転がさないと」
「だな」

ビールを一口飲みながらグラウンドに目をやる。八回ツーアウト一、三塁。一点ビハインドのこの状況ではここで決めておかないと厳しくなる。隣を見やれば、真剣にバッターを見つめる栄口がいた。こいつは、野球が好きなんだろうなってわかる。すごく楽しそうだ。

「わっ」

カンッと、木製独特の音が響いてそれとほぼ同時にスタンドが沸く。深めに守っていたはずなのに、外野はもっと下がっていく。そして壁にぶつかった。上を見上げる。

「わお」

もっと大きくなる歓声を受け、栄口は笑いながらそう言った。

「ここでホームランかよ。逆転スリーラン」
「すごいや。やっぱ四番はこうでないと。チャンスに強い」
「だな」

興奮して喉が渇いたのか、栄口は残っていたビールを飲み干してチューハイのお姉さんを呼び止めて購入した。「巣山は?」と聞かれたけどまだビールが余っているし、柑橘系のチューハイしかなかったから遠慮した(柑橘系が苦手だからな)。

「すごかったですねーホームラン」
「そうですね」

営業スマイルなお姉さんの話にニコニコと返す栄口。なんだか妙な独占欲が込み上げてきて、関係ない俺が「はい」と450円ちょうどお姉さんに渡す。栄口はびっくりしたように俺を見てきて、お姉さんは何かを悟り会釈して仕事に戻っていった。

「え、巣山………あっ」

栄口の手からチューハイを奪い、喉を鳴らして口に含む。柑橘系独特の匂いや味が口内、鼻腔に行き届く。やっぱこの味苦手だわ。

「……ごめん」

いきなり謝られた栄口は困った顔をして「何かあった?大丈夫?」と尋ねてきた。

「何かあった…そうかもな。何か、あったかも」
「え」

これが恋なんて、気づきたくなかった。




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