風呂場からシャワーの音がする。男の独り暮らしにしては広いといっても、テレビを消してしまえば部屋にシャワーの音が響く。ぼんやりしていればそれは余計に気になってしまって。もう0時を回っている中、観る気もない深夜独特の妙なテンションの番組を眺める。

こんなこと今まで無かった。オンナノコと付き合って、それなりにそれなりのことはしてきた。最近ではそんなそれなりにも疲れて一人でいることが楽に感じていたけれども。この部屋に、家族以外の誰かを入れたことは一度もない。友人と会わないわけではない。でも適当な店で飲んで、一二軒はしごして、そんな感じだ。いつも。

ここは自分が気に入った物件で、家具とか食器とかインテリアとか、好みのままに色々いじってきた自分の城。親友、と呼べる友人はもちろんいる。でもこの歳になってしまうと、なかなか予定の合わない彼らとの都合をやりくりする連絡さえ億劫になってしまう。
誰かが自分のテリトリーに入ってくる、それがこんなに心地よいものだったのは、今まさにテリトリーに足を踏み入れている彼だけだ。自然と笑えて、楽しくて。そんな存在ははじめてだった。

「シャワーありがと」
「おう」
「あ、タオル」
「使わなくなったら洗濯機に投げといて。ドライヤーそこの棚にあるから。じゃあ次行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」

行ってきます、行ってらっしゃい、ってなんだ。変に気恥ずかしくなったから、まだ濡れている栄口の髪をくしゃっと撫でてドアを閉めた。




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