「今日も寒いな」
隣を歩く、自分より少し大きい男がマフラーに顔を埋めてそう言った。マフラーのせいで巣山の低い声がくぐもって聞こえる。きっとそれは俺も同じだろうけど。
「うん」
野球部は相変わらず仲が良く、皆で一緒に帰るのが暗黙の了解みたいになっている。だからというわけではないけれど、たまに巣山と二人で帰る日は心なしか足並みがゆっくりだ。ゆっくり歩いて、他愛のない話をして。クラスも同じで一緒にいる時間も長く、話が尽きる瞬間っていうのはあるけど、この坊主頭とのそんな時間を苦しいと感じたことはなかった。そしていつも、何も言わずとも途中にある公園のブランコに向かう。もちろん今日もそうだ。
公園に入り、自転車を停めてブランコの前に立つ。これもお決まりのじゃんけん。公園を出て100mほど先にある自動販売機で飲み物を買ってくる人を決めるものだ。
「はいじゃあ、じゃんけんぽいっ…よーし」
「はいはい、行ってきます」
「お願いします」
わざとらしく深々と頭を下げてやった。その頭に軽く巣山からのチョップを食らう。頭を上げると、小走りで走っていく大きな背中。その背中を見送り、ブランコへ腰かける。
「お待たせ。今日はコンポタだろ」
「さすが巣山様―。ありがとう」
普段はココアだけど今日はコンポタの気分を察してくれるなんてさすが巣山だ。伊達に一緒にいない。理由を尋ねたら「今日クラスの山口がコンポタ飲んでんの見てたろ」って言われた。巣山にだけは、隠し事なんてできないんだろうな。そう思いながら缶を開けようとしたが、悴んだ指先ではなかなか開かない。すると伸びてきた手が缶を攫って行く。カシュ、と小さな音を立ててそれはすぐ手元に戻ってきた。
「ありがとう」
感謝を伝え、温かいコーンポタージュを口に含む。
「いいえ…あ、あとこちらもどうぞ」
「えええ?」
差し出された物を目にした途端に変な声が出た。飲み込んだ後で良かった。
「おお…」
バラだバラ。一輪の真赤なバラ。驚く俺の顔を見た巣山の端正な顔が、満足そうに緩む。
「これどうしたの」
「公園の前で荷物落としてたおばあさん手伝ったら、お礼にって。折角だから1輪だけ頂いた」
「何その男前エピソード」
差し出されたからにはそのバラを受け取り、ゆっくりと回して眺める。電灯の明かりがスポットライトみたいにそれを照らした。
「まあいつかのクリスマスには100輪のバラの花束持って迎えに行ってやんよ」
「それはそれは、楽しみにしております」
「今年は学校と部活だな」
「わーわー!!それ思い出したくない」
「はは」
コーンポタージュで温まった手で、巣山の大きな手をぎゅっと握る。こんなこと普段は俺からしないからか少しだけ驚いた顔をしてみせた巣山だったけど、嬉しそうに笑った。変わらない日常がすごく幸せだ。でもたまにはこうして、いつもとほんの少し違うことも、それはそれで幸せだ。
「すやまー」
「ん?」
「好き」
ギ、と隣からブランコの軋む音がする。巣山は缶を地面に置き頭を押さえた。
「…なんで今日そんな積極的なの」
「全部バラのせいだー」
「1輪でこれならもっと貰ってくれば良かったな」
「おい」
巣山の冗談を二人で笑い合う。きっともう帰らなくてはいけない時間だけど、お互い時計を見ないし何も言わない。いつもみたいに「そろそろ家族心配すんな」って巣山が立ち上がるまで、もう少しだけ。もう少しだけ。


end
√櫂様お誕生日おめでとうございます!!いつもお世話になっております。
なんだか久しぶりでよく分からない文ですが精一杯の愛は込めさせていただきました!実力が伴わず申し訳ないです。
これからも宜しくお願い致します!素敵な一年をお過ごしください!!


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