「さーむっ」

職員会議が延期になった。予想より早い仕事からの帰り道、冷たい空気に肩が震えた。マフラーだけじゃ寒いからそろそろコート出さないと。紺色のダッフルを去年のクリスマスに巣山がくれた。あれ温かくていいんだよな。多分、巣山がくれたからっていうのもあるけど。

寒いから、鍋にしよう。今日は巣山遅くなるかもって言ってたけど、鍋なら夜食にも食えるしちょうどいい。

「栄口?」
「おっ巣山!!早かったんだね」
「うん、なんか進みが順調でさ。おかえり栄口」
「ただいまおかえり!!」
「はいただいま」

スーパーの前で同居人にばったり会って。笑い合う。

「栄口遅いって言ってたからスーパー来たんだけどさ。これなら連絡すればよかったなあ」
「うーん、でも一緒に買い物するの久しぶりだね」
「だな。メニューは?」
「えっとね」
「「鍋!!」」








「ふぃー温かい」

巣山へのクリスマスプレゼントは徳利とお猪口、あと日本酒あげた。徳利とお猪口は大事に使ってくれていて、今日も熱燗。隣のコンロでは鍋の準備。じゃんけんで負けたので巣山の希望であるちゃんこです。

「変わらない幸せに乾杯」
「何それ」

笑いながら炬燵に入り鍋をつつく。日本酒は苦手だから巣山がマイシェイカーでカクテルを作ってくれた。カクテルと鍋なんてミスマッチみたいだけど、美味しいから何でもいいや。
鶏肉と生姜混ぜて適当に丸めてつくね入れたら喜んでくれた。温まる。

「美味しいねちゃんこ」
「次は醤油とんこつな」
「わーい。巣山ご飯おかわりは?」
「もらお。サンキュ」
「うい」

二人分のご飯をよそい、また炬燵へ入る。

「そういや栄口あれ今年着ない?」
「あーダッフル?クリーニング出してきたし、明日から着ようかなって」
「そっか」

豆腐をお椀に移しながら巣山は楽しそうに笑った。

「なんで?」
「ん。着て欲しいなって」
「お」
「…ほんとあれ、俺のイメージ通りでよく似合う。栄口が一番かわいい」

酔ってる?いや、この男ザルだからそんなはずはない。

「…ねえ…ぶはっ」

普段よりも甘い言葉を並べられ、戸惑って目の前の彼を見れば真っ赤な顔。

「わーらーうーなー」
「だって巣山顔真っ赤」
「酔ってるんです」
「野球部飲みの一発芸で鍋の蓋で熱燗イッキしてシラフほぼ奴誰だっけ」
「誰だっけ」
「白々しい」

くだらない話をして盛り上がる。高校時代と何も変わってないけど、変わった。目の前にいる坊主は昔と変わらず坊主のままだけど、大きくて優しい手も変わらないけど、多分何かは変わってる。普段ずっと一緒にいるから気づかないのかもしれないけど。

「〆はうどん入れる?」
「さんせーい」

来年の今頃は、きっと同じ場所で鍋をつつきながらダッフルコートの話を思い出すんだろうな。

「…変わらないことなんかないや」
「ん?」
「思い出、増えていくもんね」
「…そうだな」

〆のうどんを食べながら、明日の巣山を考えたけど何も変わってなかった。変わらない日常が一番温かいって、巣山と出会ってまた知れた気がする。
明日もまた、幸せな日常があるはずだから。



***
杏里さんお誕生日おめでとうございます!
6/4に頂いたので10月のお誕生日でしたのに11/24と遅くなりましたが鍋をつつく巣栄でした!
いつもお世話になっております。これからも仲良くしてください!
おめでとうございます!


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