君たちは、たった一人を守るために、多くの犠牲を払う覚悟はあるかい?

哲学の先生は、曖昧な微笑を浮かべながら学生にそう問うた。
もちろんだの彼女は俺が守るだのと立ち上がる学生もいて。俺はそんな彼らを横目で見ながらシャーペンを回していた。
たった一人を、守るために…か。
多くを得ようとすれば一つも手に入らず、一人を守ろうとすれば多くの犠牲か。
正解なんて、ないんだろうなと思いながら、自分の中でその一人になりえる坊主の姿を思い描いて講義が終わるチャイムを待った。



***



週に一度は必ず会うことにしている。忙しい中でも互いに時間を作り、会う。この大きなアメリカでは、様々なことにエネルギーーを使うから。だから、週に一度充電する時間が必要だと思う。

いつもの公園。珍しく彼の方が先に来ていた。ベンチでうとうとしている。
隣に座って、端整な寝顔を眺める。まつ毛が長く、キリッとした眉。俗に言うイケメンな恋人は、アメリカに来てからもモテているようだ。誇らしい反面、少しだけ、寂しい。

「栄治」

名前を呼べば、むにゃむにゃと身をよじらせた。

「ん…、宗?」
「おはよ」
「ごめ、ん。練習終わって真っ直ぐ来て…」
「大丈夫?疲れてるなら無理しなくても」
「…ん、宗の顔見たら元気なったから大丈夫」

栄治はあの頃よりも大人びた顔で笑い、少し伸びた髪を撫でた。
この笑顔を守りたいと、本気で思う。

「宗」
「どうしたの」
「明日、練習午後からになったんだけど」
「…うん」
「…宗ん家、行きたい」

俺の服の袖をくいっと引っ張り、艶っぽく口角を上げた恋人の額に唇を落とした。

「…疲れてるんじゃなかったの?」
「こんな一緒にいられるの、久しぶりじゃん」
「…明日腰痛いって文句言わないでね」
「ドントウォーリー。そんなヤワじゃねーから」

たどたどしい英語を交えて笑う栄治の手を引き、ベンチから腰を上げる。

「せっかく心配してるのに。後悔させるからね」
「えっ」
「ヤワじゃないって、言ったよね」
「…すみませんでした」

君たちは、たった一人を守るために、多くの犠牲を払う覚悟はあるかい?

そんな覚悟はないけど、多分その時になればとっさに、たった一人を守りにかかるんだろうな。多分多くの犠牲を払って守っても栄治は喜ばないだろうけど。
とりあえず、なるべく犠牲を払わなくても済む未来を祈る、秋晴れの空の下。



***
10/2 HappyBirthday、あいちゃん!大好きです。


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