「えー…っと」
「だから、さっきも言った通りここに代入して」
「え、なんで」
「…さっきも言ったけど、」
「さ、さっきも言ったさっきも言ったって…一回言われただけじゃ…」
「何回も同じことやってたら効率悪いじゃん。他の教科だってあんだし」
「…っみんなが巣山みたいに物覚えいいわけじゃないんだからね!!この、バカ!!ハゲ!!」

俺は教科書を閉じて教室を出た。「おい栄口」なんてクラスメイトが止めたけど関係ない。もう巣山なんか知らない!!


***


「…っ何だよあいつ」

テスト前ってこともあって、昨日の部活から一週間休みになっていた。でも昨日の部活で二遊間の連携を少しミスした。歯切れの悪い空気になってしまったけど、もう一度やったらうまくいった。でも…栄口は少し気にしているみたいだった。

で、今朝一緒に数学をやっていたんだけど…なんか昨日の空気引きずったままみたいな。そんな感じでいい雰囲気ではなかったんだけど。だけど、俺と栄口がこんな些細なことで仲違いするなんて…なんかショックだった。しかも俺はハゲじゃなくて坊主だし。

「…言い過ぎたかな」

いつも隣にあるはずの、あいつの笑顔がないことを再認識して、ぽつりと呟いた。


***


「で、逃げてきたわけ?」
「ひどいこと言っちゃったんだもん…どうしよう泉…」
「そんなんなんのも珍しいな、お前ら」
「…」

九組に逃げ込んだら、皆が優しく出迎えてくれた。

「多分今巣山泣いてんぞ」
「え」
「お前が思ってるよりもきっと…あいつお前のこと大好きじゃん。普段喧嘩しないから、余計傷つくぜ」
「…」

巣山が、傷つく?
俺より大人で優しくて賢くてかっこよくて…そんな巣山が、そんな…

「…俺、謝ってくる」

立ち上がって、泉にそう伝えた。泉は頷きかけたけれど、隣にいた浜田さんが苦笑しながら廊下を親指で示した。

「一足早く、迎え来たぜ」


***


謝りに行こう。そのために、とりあえず探しに行こう。そう思って立ち上がったら、クラスの女子が2人隣に立っていた。

「栄口くんなら、九組に入っていったよ」
「二人が喧嘩してたから、つい追いかけちゃったよ」

クラスの女子の協力によって、栄口が九組にいることが分かった。走って向かう。ドアを開けると、浜田さんと目が合った。苦笑される。そして、誰よりも愛しい姿。

「…栄口」
「す、やま…」

何かを考えるより先に、体があいつを腕に閉じ込めていた。


***


「っ巣山」

気がつけば大好きな腕の中にいた。同い年なのに俺より固くて大きい体。悔しいより、今は嬉しかった。

「ごめんな、栄口…練習のイライラ引きずって…冷たくしちまった」
「俺こそ…なんか集中できなくて巣山に迷惑かけて…ほんとごめん」
「…クラス、戻ろ」
「うん…っまた、一緒に勉強…してくれる?」
「当たり前だろ。一緒頑張ろうな」

顔が近づいてきて、俺はそっと目を閉じた。

「はいはいはいはい、続きは出ていってからにしてくださいねー」
「!!」

泉にぐいぐいと教室から追い出された。うわ、そういえばここ九組だった!!

「…帰るか」
「…うん」

巣山に手を引かれ、俺達は歩き出した。

「泉、巣山泣いてるかもって言ってたけど泣いてなかったね」
「…っ、そ、そんなことしねーから!!」



***
えつ様よりリクエストの「喧嘩からのラブラブ巣栄」でした。
ラブラブ大好きなのでこういうネタ楽しかったです!!

えつ様!
この度は素敵なリクエストありがとうございました〜
癒しを提供できているようで本当に嬉しいです*
なかなか更新できない日々が続きますが、頑張りますので宜しくお願いいたします!!
リクエスト本当にありがとうございました!!


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