「んー、いい天気だね」
栄口はぐっと両手を空に向かって伸ばした。晴れて心地よいゴールデンウィーク。何だかんだ仕事だったり用事だったりで、せっかくのゴールデンウィークも二人で会えるのは今日一日だけ。巣山は栄口を見て嬉しそうに微笑んだ。
「晴れて良かったな」
「うん、本当に」
予定は特に決めていない。のんびり街を歩いて、気が向いたらぶらりと店に入って。そんな感じだ。
「そろそろ昼時だな」
服屋でTシャツを一枚買った巣山は、レジから戻ると栄口に告げた。
「そうだね、ご飯どこで食べようか」
就職してからはコンビニで買い食いしなくなったけど、そんなに大人になっているという感覚を二人は持っていなかった。高校時代から変わらない存在が、隣にいるからかもしれない。
「近くのイタリアンでも行くか?この間上司が連れてってくれたんだ」
「へー、美味しかった?」
「うん、美味かった」
「じゃあそこにしよっか。何のパスタあるかな」
「…あ、でも」
「?」
歯切れの悪い言葉を返してきた巣山を、栄口は不思議そうに見つめた。
「…どうしたの」
「休みだから…カップルとかで混んでるかもな」
「あー、そうだね」
そういえば今はゴールデンウィークだった。
栄口は納得したようにそう呟いた。
「…ラーメンでも行くか」
「だね。あ、行きたい店この辺りだった気がする」
「お、どこどこ」
「えっと」
スマートフォンを慣れたように扱い、店を検索する。見つかった。
「行くか」
「っうん」
人通りの多い街。恋人なのに繋がれない手と手。もどかしい距離が続く。
「…あ、飯食ったらお祝いの何か見に行くか」
「そうだね!!この辺お店たくさんあるし」
「あいつらしいの、何か見つかるよな」
「うん」
高校の同級生である山口が結婚することになった。相手はあの頃から付き合っていたサッカー部のマネージャー。幸せそうな写真付の招待状が送付されてきた。栄口は少なからず憧れを募らせていた。巣山には言っていないが。
二人はラーメンを食べ、店を渡り歩く。親しい友人で結婚というのは山口が初めてだ。だからなかなか贈り物が決まらなかった。
「うーん…新婚にあっても邪魔にならなくて…気を遣わせない手頃なもの…何だろ」
「好み、あんま関係ないのがいいよな」
「だよねー」
ふと、栄口は想像した。最愛の人と一緒に生活を始めて、邪魔にならなくてさりげなくお洒落な何か…
「あ、これはどうかな」
「ん」
大学時代、彼女も一緒に酒を飲みに行ったことがある。その時を思い出して栄口はペアジョッキを提案した。
「あ、いいかも」
「だろ?シンプルだし、二人とも酒好きだし…」
それに、自分のことに当てはめてみたら考えたらこれが一番しっくりきた。
栄口はそう言って笑った。巣山も薄く微笑む。そして栄口の手を引いた。
「っえ」
「これ、一緒買うか」
そこにあったのは夫婦茶碗。濃い灰色のシンプルなデザインだったが、栄口は一目で気に入った。
「で、も…」
「一緒…暮らそ」
巣山は真っ直ぐ栄口を向いて言葉を伝えた。栄口の目から雫が一筋零れる。じわり、と滲む視界の中で、栄口は巣山が不安そうな顔をしているのを見つけた。
「…駄目か?」
「っそ…そんなわけない!!」
「!」
「…そんなわけ、ないじゃん」
目からぼろぼろ溢れ出すのは嬉しさの形。巣山はようやく嬉しそうに笑って「ありがと」と言った。
山口の結婚式の二次会で、二人へのささやかなお祝いが行われたのは…まだ先の話。
***
匿名様よりリクエスト「プロポーズ巣栄」でした。
二人の披露宴とか行きたいですはい。
匿名様!!
この度は素敵なリクエストありがとうございました。二人の幸せな雰囲気を書けて嬉しかったです。文才無いのがもどかしいですが…ああ…
これからも一組共々宜しくお願い致します!
本当にありがとうございました。
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