「…」
今日は元気がないと思う。きっと朝練で監督から同じことを二回注意されたからだ。バックホームのための中継の入り方がうまくいかなくて。言われてからも同じことを繰り返して。できるまでやってやろうとは思ったけれど、時間も無くなってそのままで来てしまった。まだもやもやした気持ちが残ったまま。
ぼんやりと窓を眺める。雲は流れ続けている。何となく今日は雨が降れば良いだなんて、普段は思いもしないことを考えてしまった。まずい。
「やばいかもなあ」
自分がすぐにきっぱりと切り替えられる人間ではないことくらい知っている。でも、引きずらないようにしようとする度に気にしてしまう自分がいる。
「忘れちゃいけないけれど」
今日ミスしたことは、もう二度としたくない。だから忘れないようにしなければいけない。でもどうしても忘れてしまいたい自分がいた。部活に行くのが億劫だ。
窓から見上げる空はいつも以上に快晴で。さすがに俺の気持ちだけで天気は変わらないなって思った。そして一人で苦笑した。
「栄口」
「巣山」
「窓の外、何かあんのか」
きっと巣山は気づいているんだろうな、俺が気にしていること。グラウンドでだって一番近くにいてくれて。クラスでだって傍にいてくれる。気持ちだって…一番深くで繋がっていると思う。だから巣山にはいつも甘えてしまうんだ。
「や、空見てただけなんだけど」
「あー、良い天気だよな」
「…うん」
「珍しいな、天気の日にどんよりしてるの」
「そうかな」
笑いながら巣山を向けば、頭を手でそっと押されて下を向かされる。
「どうせ、雨降れば良いとか思ってたんだろ」
「っ、ど、どうせって何だよー」
「さっきのミス引きずってんの分かるよ」
触れられた手があまりにも温かくて。この温もりに身を任せて涙が出そうになった。
「誰だってミスはすんよ」
「、でも」
「ん?」
無理に励ますだけじゃなくて、こうやって俺の話も聞いてくれる。
それが、自慢のコイビトの巣山だ。
「注意されての二回連続は厳しいでしょ」
「気づいてることが大事なんだよ」
「、え」
そっと頭を撫でられる。温度が全身に伝わって心地いい。
「気づかないでいるより気づいてる方が良いだろ。わざとやってるわけじゃないんだからさ」
「…」
「雨、降りそうにもないぞ」
「…やっぱり、降んないかなあ」
今グラウンドに行ったら、また同じミスをしてしまいそうで怖い。また注意されたら…
「俺は降らないでほしいけどな」
「なんで?」
「今しっかりやっといた方がお前のためじゃん」
「でも」
「一日グラウンド離れるとまた分かんなくなっぞ」
顔を上げたら、そこには優しく微笑む巣山がいてくれた。
「…うん」
「今の栄口にこの快晴は嫌だって感じてるかもしれないけど」
「…」
「俺は嬉しいな」
巣山は俺の頬を両手で挟んで言った。
「空も“今のうちに練習しろ。きっと上手くなるぞ”って応援してくれているように感じるんだけど」
そんなことを大好きな笑顔で言われてしまったら、もう何も言えなくなってしまうじゃないか。素直にグラウンド行くしかなくなるじゃん。
「巣山ずるい」
「はあ?」
「うん、頑張る。今日で修正完璧に終わらせる」
「終わらなかったら、終わるまで付き合うからな」
「…ありがと」
俺と巣山は拳をごつんと合わせて、窓から綺麗に澄んだ空を見上げた。
END
***
匿名様より六万打フリリク「落ち込んでいる栄口を慰める巣山」でした。
おっとこまえな巣山君が大好きなもので書いていて幸せな気持ちになりました〜栄口君の気持ちを芯からくみ取ってあげる巣山君は素敵です。王子様です。
素敵なリクエストありがとうございました!!
遅くなってすみません。書き直し希望などございましたらお気軽にお申し付けください!
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