「…栄治?」

もしかしたら会えるかもしれないだなんて、そんなことを想いながら俺は異国の地へと降り立った。会えるかは分からないから相手には内緒にして。
でも、内緒にしていたにも関わらず俺の前に現れてくれた時は心臓が止まるかと思った。その上隣には大人っぽくてスタイルの良い金髪美女。

「、宗!!」

俺に気づいた栄治は嬉しそうに笑った。

「なんだよ、アメリカ来てんなら言ってくれれば良かったのに」

ニコニコ笑って俺の元へ駆け寄る栄治の腕を、美女は引っ張って引き留めた。

「え、」
「　　　　　　?」
「いや、えっと」
「　　　　　　!」

栄治と言葉をいくつか交わした後、美女は意味深な顔で俺を見詰めてくる。目が合ったらニコリと微笑まれた。

「…ごめんね邪魔して。どうぞごゆっくり」
「ちょ、宗!!」
「Good bye」

俺はクラスメイトの元へ戻っていった。皆は「どうした」やら「知り合いか？」やら聞いてくるけどごまかして。女子は女子で「あの日本人すっごい格好良いね」だなんてひそひそ話している。普段ならそのことも気になるけれど、今はあの外人女性のことで頭がいっぱいだった。

「…宗のこと、いつも考えてる……か」

この間来た手紙の一文を呟いてみる。そんなこと言いながら美人と仲良くしてるじゃないか。俺は妙な気持ちが込みあがってきて溜息を吐いた。修学旅行に来てまで、あの人のことが好きで好きで溜まらない。



＊＊＊



「神―」
「どうしたの?」
「部活への土産、いつ買う?」
「あーどうしよっか」
「せっかくバスケの本場に来たんだからバスケ関係の土産が良いかな」
「そうだね、探してみようか」

俺は頷いた。
するとバスケ部の友人は思いついたように話した。

「沢北に聞けば良いんじゃないか?」
「…え」
「沢北今こっちにいんだろ?そういえばさっき神と話してなかったか?」
「…そうだった?」
「おい、神!」

思い出すだけで頭が痛くなる。いつでも想っているのは俺だけなのかもしれない。
本当なら俺もアメリカにいたいと思った。栄治を傍で見て、一緒に笑って。そんな毎日を送りたいと思っていた。

「…でもなあ」

追いかけているのは俺の方。いつもいつも、俺の方。

「っ、そ、宗!!」

勢いよく名前を呼ばれたから、その声の主を考える前に振り向いてしまっていた。そこには栄治の姿が。振り向かなきゃ良かったかも。

「…何?」
「なんでさっき…行っちゃったんだよ」
「なんでって、恋人の浮気現場を目撃して冷静でいられる自分じゃなかったから?」
「浮気って……もしかして、メアリのことか?」
「へえ、名前まで可愛いんだね。さすがモテるじゃない栄治」

俺の一言に栄治はむっとした顔をして見せた。

「宗、本気で俺が浮気したと思ってんの?」
「何か間違いでも?」
「するわけないじゃん」
「…じゃあどうして二人きりで仲良く腕を組んで歩いていたの?」
「そ、それは否定しないけど…浮気じゃないよ」

いつまでも冷たくいる俺に対して強気だった栄治はだんだん泣きそうになってきた。

「…なんで、疑うんだよ」
「疑うんじゃなくて、事実でしょ?」
「腕は組んでた。でも…浮気じゃないんだよ」
「浮気じゃないなら何なの?」

栄治の目から、涙が一筋溢れた。

「監督の、娘さんなんだ」
「監督の?」
「監督の娘さんに買い物頼まれて、なんか断りづらくて」
「…」
「腕だって、あっちから絡んできて。こっちって皆積極的だから、別に深い意味はないんだよ」

俺は頼まれて戸惑いながらもオーケーする栄治を思い浮かべた。あまりにも簡単に想像できたから、つい笑ってしまった。

「、宗?」
「…いや」
「分かって、くれた?」
「分かった。でも…」
「、でも?」

不安そうに俺を見つめる栄治。そんな一つ一つの仕草が愛しくなって。今まで怒っていたはずなのにそんなの全て忘れてしまえるようにさえ感じた。

「バスケ関係の土産買える店教えてくれたら、許す」
「、任せて!」

栄治は嬉しそうに笑って俺の手をぎゅっと握った。俺はその手を引っ張って耳元に自分の唇を持っていく。ドクンという心臓の音が聞こえた気がした。

「焼きもち妬いてごめんね」
「っ、いや」
「それだけ、俺はいつも栄治のこと想っているんだよ」
「俺だって、毎日宗のこと考えてるよ」
「え?」
「…好き」

小さく呟かれた言葉を逃がさないように、俺は言葉ごと唇を塞いだ。

「俺だって妬いたよ?」
「何に?」
「メアリが宗を見て格好良い。誰?紹介して。とか言ってきたから」
「あの時の会話ってそういう話だったの?」
「宗って鈍感だよなー」
「栄治のことで頭がいっぱいだからね」
「…俺もだけどさ」



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匿名様より六万打フリリク「神沢で浮気疑惑」でした。
いつか書きたかった遠距離恋愛での浮気疑惑!アメリカ女性って積極的なイメージがあるのでそれに押される沢北書いてみたかったんです!!
神君は美人さんだし優しそうな雰囲気なもので外人からもモテるんじゃないかなって思いました。神君好き!笑
すごく楽しいリクエストありがとうございました!そして遅くなってすみません。
書き直し希望などございましたらお気軽にお申し付けください。



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