「あ、しょうちゃん!!」
栄口と二人で買い物中、見知らぬ男に彼は声をかけた。誰だこいつ。
「お、勇人と…えっと」
「ほら、前電話で話した巣山だよ」
「ああ、こないだ言ってた巣山君か!」
俺を対象とした会話なのは分かるけど、なんとなく疎外感。何が外されている気がするかってそりゃあ…
「しょうちゃん、今日練習は?」
「なんか午後からになった。勇人んとこは?」
「西浦は今日ミーティングだけだったんだ」
「そうなんだ」
「しょうちゃん」と「勇人」って呼び合っているのが何か気に入らない。
「あれ、そういえば巣山ってしょうちゃんのこと知ってたっけ?」
「や、栄口の友達ってことは…分かるけど」
「シニア一緒だったしょうちゃんだよ。今は美丞にいるんだ」
「、へえ」
シニアが一緒で、今は違う高校。だけど電話はしている。
(俺より関係長いじゃんか)
そんなこと言ったら阿部だって同じ中学で。そこまで面識はなかったにしても俺よりも早く栄口に出会っていた。そんなこと気にしてたらキリがない。だけど…
なんか、すごく寂しい気持ちになったんだ。
「じゃあな、勇人」
「うん、また電話する」
「そういえば勇人、巣山君と苗字で呼び合うなんて駄目だと思うぞ」
「え」
「ソウイウ関係なら尚更な。じゃあな、勇人と巣山君」
「ちょ、っとしょうちゃん!!」
「しょうちゃん」は爽やかに意味深な笑顔を残して行ってしまった。栄口の顔は真っ赤になっている。
「ごめんね巣山、色々」
「別に」
「…何?」
「え」
「怒ってる」
「怒ってない」
「嘘でしょ」
「…嘘じゃない」
「じゃあなんで、目見てくれないの!」
ぐいっと腕を引っ張られて栄口と向き合う。そのまま顔が近づけられて見つめられた。突然の出来事に不意に胸がドクリと高鳴った。
「っ、ごめ」
「…や」
栄口に腕を離されてそのまま目を逸らされる。俺は無性に抱きしめたい衝動に駆られて、腕を引っ張ってそのまま俺の家まで連れて行った。
***
「す、やま?」
「…」
黙ったまま家に連れて行かれた。引っ張られた腕は少し熱い。
「どうしたの?」
「…」
部屋につくと、ようやく腕を離された。巣山の顔は少し強張っているように見えて。
「俺…なんかし……っ」
「なんかした?」と聞こうとしたけど、それは深い口づけで消されてしまった。急に襲ってきた感覚に思考回路が消滅してしまうかと思った。
「すや」
「ごめんな、なんかしたのは俺の方だ」
「、え」
「勝手に妬いて、勝手に連れてきて。本当ごめん」
巣山は辛そうな表情をしていた。俺はびっくりしてそのまま言葉が出てしまった。
「な、なんで妬いたの?」
「…さっきのシニアの…呼び捨てだったし」
「ああ、しょうちゃんのこと?」
「うん、」
「そ、それはシニアなら皆同じだし…皆勇人だよ?」
「そうかもしれないけどさ、」
それは分かってるけど、妬いちゃったんだよ。
そう、頭を手で撫でながら言った巣山がすごく愛しく思えた。嬉しくなって俺は巣山にぎゅっと抱きついた。
「ありがと」
「…俺お礼言われることしてないんだけど」
「でも、嬉しい」
「情けないだろ?」
「ううん、好き」
嬉しさが込み上げてきて、思っていたことがそのまま口に出てしまった。巣山の鼓動の音が聞こえてくる。温かい。
「じゃあ巣山も名前で呼んでくれる?」
「いや、それは…」
「え」
「なんか、恥ずかしいし」
「そ、そんなことないでしょ!!」
思ってもみなかったことを言われてついどんっと肩を軽く小突いてしまった。
そしたら巣山はやっと笑って「じゃあ栄口は俺のこと名前で呼べる?」なんて聞いてきた。呼んでやろうと思ったけどやっぱり恥ずかしかった。
「恥ずかしいだろ?」
「…うん」
「やっぱ恥ずかしいもんだよな、慣れてないから」
でもやっぱり、いつかは呼んでみたいと思う。だってその言葉はすごく尊くて、その人の存在を示すものだから。
そんなことを考えていたら巣山は俺をぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。
「いつの日か、呼び合える日が来るよな」
いつの日か。
そう考えるとくすぐったいけど、そのいつの日かの夢を描くとそれは遠いようですぐ近くにあるようにさえ思えた。
だから俺は巣山の腕の中で小さく頷いた。
END
***
水蓮様より六万打フリリク「巣栄+しょうちゃん(名前呼びに焼き餅ネタ)」でした。
遅くなってすみません!!しかしすごく楽しかったです。しょうちゃんネタ…素敵すぎるリクエストありがとうございました!!
幸せな巣栄を書けて良かったです。
書き直し希望などお気軽にお願いします。
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