「あれ、巣山!?」

お呼ばれされた結婚式会場で、いるはずのない男の名前を呼ぶ。あれ、錯覚…なんかじゃないよね。

「栄口!?なんでここに」
「それはこっちのセリフだよ」
「俺は小学校ん時の担任が結婚するからって…」
「俺は中学ん時の担任が結婚するからって…」
「え」
「え」

奇遇なことに、新婦さんが俺の担任で新郎さんが巣山の担任でした。
まさかこんな所で巣山に会えるとは思わなかった。

「しかもスーツじゃん!」

きちっとしたスーツ姿は、巣山をいつもより何倍も男らしくさせていた。
やばい、すごい似合ってて格好良い。

「…同級生制服多いのに、俺スーツで気まずいんだけど」
「そ、そんなことないよ」

俺はそう言って巣山の同級生の方に目をやった。

「…巣山、」
「ん?」
「…なんでもない」

なんでもないはずない。後ろの方にいた女の子達の視線は巣山に集中していた。
あの目は「巣山君だけスーツね」「そうね、学生なのにね」「西浦は私服だからしかたないんじゃない?」「そうだったね」とかいう会話をしている目じゃない。見とれている目だ。

「こんなとこ来てまでフェロモンふりまかないでよ」
「はあ?」

だって巣山は格好良くて。俺は知り合いに貰った学生服で。こうしてただ並んでいるだけでも不釣り合いなのに。周りはどんな目で俺のこと見てるんだろう。

「あ、勇人じゃん!!」
「あ」

俺ら二人の沈黙を破る男の声。振り向けば体当たりされた。

「あ、大輝!!」
「久しぶりだな勇人」
「本当に!」
「あれ、この人は誰?クラスメイトじゃねーよな?」

大輝は巣山を見て不思議そうに問うた。

「ああ、この人は」
「今の栄口のクラスメイトで巣山っていいます。新郎が俺の元担任で」
「あ、そういうことか。俺の勇人がいつもお世話になっています」

大輝は深々と頭を下げた。え、ちょっと今の発言は!!

「…へえ、栄口はキミのものなんだ」
「え、いや巣山、」
「巣山―!!」
「あ、俺も呼ばれてるから行くわ。じゃあ楽しんで」

今までに見たことのない嫌味なほどの爽やかな笑顔を残して巣山は同級生の元へ走って行ってしまった。

「ちょっと大輝!どうしてくれんの!!」
「はあ?」

巣山、怒ってるのかな。



***



『では、新郎新婦の退場です!!』

皆が式場の庭に出て、二人の姿を待つ。
周りは皆笑顔だったけど、俺の心は晴れないまま。どうしよう、巣山まだ怒ってるのかな。

不安な気持ちを隠せないまま拍手していると、後ろから手を引っ張られた。

「っわ」
「ごめん」
「、え」

耳元で囁くように言われたその言葉の主は、想い焦がれたあの人で。

「巣山」
「さっきはごめんな、嫉妬した」
「っ、ううん」
「俺なかなかああいうこと言えないし、付き合いだって短いし」
「…」
「だからちょっと羨ましかった」
「…時間なんて関係ないし、それに…」

心配しなくても俺が好きなのは巣山だけだよ。

そう素直に伝えたら、巣山の顔は真っ赤に染まった。

「っバカ」
「バカはどっちだよ。あんな単純な冗談に嫉妬して」
「…反論できません」
「あははっ」

さっきまで曇っていた顔は、みるみる自然に笑顔があふれた。

「結婚って良いな」
「何?いきなり」
「ほら見ろよあの二人。あんな幸せそうに笑ってる」
「…俺達は結婚できないね」
「でも、こうやって誰よりも幸せ感じれるからそれで良いかな」

そう言って、巣山は嬉しそうに笑った。また胸が締め付けられる。

「俺、巣山の笑顔がすっごく好き」
「俺だって栄口の笑顔可愛くてすごく好き」
「巣山の笑顔だって可愛いよ」
「は?栄口が世界一可愛い」
「っもう」

その時、ざわめきが聞こえた。
二人でそのざわめきの方を向くと、そこに影が落ちてきた。その影の正体を捕まえる。

「わ、ブーケ!」

落ちてきたのはブーケだった。

「もしかして、ブーケトスじゃね?」

周りの拍手に包まれる。中にはブーケを狙っていたのか女の人の怖い視線もあったけど。

「次に結婚するのは栄口君かしらね!!」

新婦さん…もとい俺の担任だった先生は笑ってそう言った。その言葉にますます会場は盛り上がりムードを見せた。

「当たってるかもな」

そう言って巣山は、こっそりと俺の左手薬指を引っ張った。

「いつか、ここに本物はめてやっかんな」
「!!」

巣山の隣にいれば、毎日が世界一幸せだと改めて思った。



END



***
匿名様よりリクエストの「結婚式で出くわして結婚式への憧れを募らせる巣栄」でした。
内容広げたら巣山君の嫉妬にまで手を出してしまって…
二人は結婚式の主役さしおいて何イチャイチャしてるんですかね!笑
リクエストありがとうございました!



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