「巣山―、次は体育だったっけ」
「そう。じゃあ着替えっか」
「うん」
俺と巣山は体育のために二人でロッカーから運動着を持ってくる。
野球部として早く着替えることは得意。
だからいつも俺と巣山はすぐに着替えてしまえる。つまり最初に教室を後にする。
「行こうぜ」
「う」
うん、という言葉は「うおおおお!」という雄叫びに消えた。
「え、何」
「栄口と巣山も来いよー!」
クラスメイトに言われるままにとことこと近寄る。
体育前は女子が別の所で着替えるためにこの教室は男子だけになる。つまり、何も気を遣わなくても良いってことで…
「だからってこれはねえだろ」
巣山はその男子の輪の中にある一冊の雑誌を摘み上げて溜息を吐いた。
「“桃色夢色女子高生”とか胡散臭えな」
皆は女子がいないこの時間にエロ本やらを広げて盛り上がっていた。貸し借りもしているようだ。皆思春期だなあ。あ、俺もか。
「うるせーよ巣山」
「いやいや、巣山はもっとレベルが高いモンがお好きなんだろ」
「おお、さすが巣山さんじゃん」
ニヤニヤしながらクラスメイトの青木は一冊を選って巣山に手渡す。
「“船にゆられながらベッドの中で夢気分”…何じゃこりゃ」
巣山はばさりとその雑誌を机に放って俺の肩をぽんと叩いた。
「行こうぜ栄口」
「え、う、うん」
そんな俺達を皆は慌てて止めに入ってきた。
「おい巣山!栄口の前だからってかっこつけてんじゃねえぞ」
「そうだそうだ!オトコはそういう生き物だ!!」
皆は口々に巣山を非難し始める。俺はそれを黙って見ているだけなんだけど。
「お前らなあ、別に俺はかっこつけてねえよ」
「じゃあお前らも混ざれよ」
「栄口だってムッツリ巣山に嫌々してんじゃねえの?」
「いや、俺は…」
よく分からない方向に話が進んでしまっているのが気にかかるけど、適当に流すことにした。
「おい巣山!はっきり言えよ」
「そうだよ。素直に“俺も混ぜてくれよ〜”とか言えば良いだろ」
そんなこときっと…いや絶対に巣山は言わないだろうけど、とつい想像してしまって笑いを零してしまった。
「どうした?栄口」
「…や、なんでもない」
「まず行くか。こいつらにはこいつらの世界があるんだ」
「そ、そだね」
「そっとしておこう」
巣山にそっと肩を押されてそのまま廊下へと足を踏み出す。
「おい巣山!逃げんのか!!」
「ついでに栄口まで連れて行くなよ。俺らは栄口を大人の世界に招待してやりたいんだからさ」
「そうそう、巣山のためにも頑張らなきゃ駄目だもんな〜」
とまあ皆は俺を仲間に引き入れたいらしい。
俺が少し困って巣山を見つめたら、巣山ははっきりと言い切った。
「栄口のことは全部俺に任せておけば良いんだよ」
ボヒュッ!と顔が沸いてしまった気がした。やばい、顔が熱い。
「す、巣山」
「ん?どうした栄口」
さらっと殺し文句を言ってくるところにいつもやられてしまう。そんな俺を皆が白い目で見ていることにも気づかないほど巣山に溺れてしまう。悪い癖。
「…でも、たまには女にも目やってみろよー」
「なあ、それが普通なんだぜ」
「俺らは思春期なんだからさあ」
皆はなかなか揺るがない。ここまできたら皆意地なんだろうな。
「まあ思春期だけどな」
「だろ!?だから俺が一冊…」
「だけど俺栄口にしか興味ねえから」
俺の顔はまた真っ赤に。周りの顔は真っ青に。巣山の言葉にやられた。
「じゃあ行くか栄口」
「う、うん」
「何顔赤くしてんだ?」
「…だって巣山が」
「ん?」
巣山は何も知らないかのようにキョトンとした顔をした。
「…なんでもない」
きっと後ろを向けば、呆然と立ったままのクラスメイトがいるんだろうな。
そんなことを考えながら体育館へと足を急がせた。
END
***
ミウラ様リクエスト「捏造一年一組ネタ」でした。
一組が好きすぎます。本当に。
ずっと温めてきたネタだったんですがなかなか書けませんでした…
書き直し希望はどんとこいです!
リクエストありがとうございました!
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