冬と、恋と、後輩と、

___


「イチノさん」
「何」
「俺、冬好きです」
「…何を今更」

後輩はニコニコしながら「やっぱり冬大好きです」だなんて言った。
俺とは正反対だ、こいつは。俺は冬が嫌い。寒いし、辛いし。

「冬の何が良いんだよ」
「雪合戦も楽しいし、雪上バスケ…ってか雪玉でバスケっぽいことすんのも楽しいし」

とにかく楽しいんですよ、って言葉に溜息を吐く。
そんなこと言えるのは、お前くらいだよ沢北。
冬を楽しめる奴にとって冬は嬉しいかもしれない。
でも、俺みたいな冷え性の奴に冬は辛いんだって。

「雪が降ったら、イチノさんもやりましょうね」
「馬鹿言うなよ、俺には無理。他の奴等とやってろよ」
「何でですか」
「ほら」

ぎゅ、と沢北の手を握る。

「うあ、冷た!」
「この上雪の上に出たら凍えちまうって」

俺は盛大に溜息を吐いてみせた。
それでもキョトンとした顔をしてみせるのは、俺の言葉の意味が分かっていないからだろう。

「…イチノさんって冷たいんですねー」
「心も体もな」
「え、そんなことないっすよ」

沢北はにこっと笑って言い切った。

「手が冷たい人って、心が温かいんすよ」

イチノさん優しいから手が冷たいんだー!なんて言ってニコニコする沢北が無性に愛しくなって、でも悔しくなって。

「じゃあ温かいお前は心が冷たいんだな」
「そんなことないですよー!どっちも温かいんです!!」
「はいはい」

適当にあしらっていると、不意に腕を引き寄せられた。
気がつけば全身が温かい何かに包まれていて。

「、え」
「ほら、温かいでしょ?」

沢北の腕の中は力強くて、いつも居心地が良い。
恥ずかしいからあまり身を委ねることはないんだけど。
でも改めて抱き締められてみると、鼓動の音が妙に心を落ち着かせた。
沢北の匂いがする。温かい。

「…心までは温度分かりません」
「じゃあもっともっとぎゅーってしますよ!」
「う、苦しいよ馬鹿」

押しのけようとしてもなかなか離れない。
こんな時、沢北の逞しい体を実感するんだ。有名選手である沢北栄治の。

「イチノさん、温かい?」
「…ん」

コート上では尊敬できるすごい選手だ、沢北は。だけど、それだけじゃない。
結局はコートを離れても俺にとっては眩しい存在で。
愛しくて、でも憎くて。それなのに傍にいたくて、恥ずかしくて。
ぐるぐる想いは巡るけど、やっぱり俺はこの馬鹿が大好きで。

「ぎゅーってし過ぎると、一人になっちゃったりして」
「俺とお前足して二で割った感じかな」
「じゃあちょっと背縮むかなー」
「でも馬鹿になるな。俺の頭と足して割ってもお前の馬鹿が勝つから」
「あ、ひでーやイチノさん!」

沢北はやっと俺から体を離した。でも、なんか寂しい。

「あ、イチノさんもっと抱き締めてて欲しかった?」

俺の気持ちを察したのか、沢北はニヤニヤしながら言ってきた。

「な、さ、寒かっただけだし」
「分かりました。じゃあ温めてあげます」

沢北はいつも俺の素直になれない心をさらっていく。
だからこそまた悔しくなるんだけど。

「…うん」

嬉しそうに笑った沢北の腕に、素直に身を委ねた。
今まで嫌いだった冬も、今年からは好きになれそうだ。
隣に沢北がいてくれたら、不思議とそんな気持ちにさえなれる気がした。



END


***
ゴトウ様へ捧げさせて頂きます!
一応2話(?)構成と考えているので、これは1話目になります。
きっと2話目は、沢北目線でまた違う感じになると思います…
なかなかご希望に添えることが出来ずにすみません…
いつも有難うございます。大好きです!笑
これからも宜しくお願い致します!!



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