「…風邪、か」

風邪をひくなんて何年ぶりだろう。少なくとも山王に入学してからは初めてだ。いくら鍛えてもウィルスには負けるのか。

「…今日は沢北に一喝してやろうと思ってたんだけどな」

沢北が堂々とイチノにちょっかいを出すのを黙って見ていられなくなった。
深津も見かねて制裁をくだしてはいるが、まだまだ足りないらしい。
毎日のようにイチノのクラスにまで押しかけているらしいのだから。
今日はそんな沢北に説教の一つでもしてやろうと思った。
本当は風邪なんかで休みたくはないけれど、周りに移してもあれだし。それに、一日ゆっくり休んで治した方が良いと思って休養をとることにした。

「…眠れん」

早寝早起きをきちんとしてきた生活の中で、なかなか明るい時間に眠ることができない。寝たいのに寝られない。この時間があればバスケをして技術を上げた方が良いようにさえ思う。休んでいるのは性に合わないらしい。

そういえば、この間深津がカセットテープくれたんだった。
「最近少し疲れが見えてきている河田にプレゼントだピョン」とくれたものだ。癒しの音楽やら何やら言っていたから流してみるか。

早速布団から起き上がってカセットを回す。少しの空白の後に静かなメロディが流れ始めた。穏やかな、静かな、音楽が部屋を包む。

疲れが、溜まっていたのかもしれない。気丈に振舞っていたけれど、本当はこうして穏やかな時間を過ごしたかったのかもしれない。
そうやって認めてしまうと、すぐに眠気がやってきた。



***



ピンポーン

「…誰だ?」

どれ位眠っていたのだろうか。少し薄暗くなった部屋に聞こえてきたチャイムの音。
物音がしないところからみると、まだ家には誰も帰ってきていないらしい。
俺はむくりと起き上がって玄関へ向かった。

「はい」

玄関の扉を開けても誰もいない。銀世界が広がっているだけ。

イタズラか、と閉めようとしたら、足元に置いてあるビニール袋が目に留まった。

「…あいつら」

中にはリンゴやミカン、そして市販の薬と「お大事に バスケ部一同」と書かれた手紙が入っていた。

「…あれ」

ポストの上に雪うさぎを見つけた。ポストには紙切れが一枚入っていて。


早く元気な河田に会いたいピョン

その文面と、深津によく似た雪うさぎの顔を見てつい笑みが零れた。

「明日は、行くよ」

玄関から先に繋がる一人分の足跡を見ながら、俺はそう呟いた。



***



「河っさん元気でした?俺も行きたかったのにー」
「お前が行くと練習しろって怒鳴られるぞ。喜んでた?」
「寝てたみたいだから置いてきたピョン。手紙も入れてきたから大丈夫、山王の代表として役目は果たしたピョン」
「でも、皆で行けば良かったんじゃないですか?喜ぶでしょうし。なんで深津さん一人で行ってき」
「早く練習するピョン」

誰かがいる前で、あんな置き物できないピョン!



END



***
ゴトウ様!一万打おめでとうございました!!
ずっとお祝いしたい…と思っていたのですが、遅くなってしまいました。
初めての河深に挑戦してみたのですが、深津さんと河っさんが共演していません…
なかなか上手く書けなかったのですが、気持ちだけは溢れんばかり込めました!
雪うさぎは…ギャグということにしてください 笑
これからも素敵なお話楽しみに通わせていただきます!
この度は本当におめでとうございました^^



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