「ねえイチノさん」

布団の中で、甘えるような沢北の声で名前を呼ばれる。
返事をする前に、首元を大きな手で撫でられる。

「…なんだよ、くすぐったいだろ」
「イチノさんの肌気持ち良いですね」
「ちょ、足触んなっての」
「すべす…っいた!」

首元から太ももまで滑るように降りていった沢北の手を叩く。

「変態かお前」
「今更じゃないですかイチノさん」

こんなことで恥ずかしがる仲でもないはずでしょうー。
とか何とか言いながら、沢北は叩かれた自分の手を大事そうに撫でていた。

「ねえイチノさん」
「、」
「キス…しても良いですか」
「なんだよ改まって」
「だってイチノさん純情だから」
「…それこそ今更だろ」

散々色々やっといてよ。
と言いながら沢北の手を握ると、そいつは妙に優しく微笑んだ。

「好きです、イチノさん」

目を閉じると、大好きな温もりがゆっくりと伝わってくる。
これがいつもの沢北とのキスだった。
でも今日は温もりを感じない。

「…沢北?」

不思議に思った俺は名前を呼んで目を開けた。
周りに広がるのは殺風景な自分の部屋だけ。
隣を見ても誰もいない。
名前を呼ばれた声も、すぐ近くで溶かすように吐かれた息も、何も感じなかった。

「…そっか」

あいつ、アメリカ行ったんだ。

「何でだよ」

何で、全部持って行かねえんだよ。
アメリカまで行くなら、この温もりも気持ちも全部、持っていってくれれば良かったのに。

「…そっか」

これが、寂しいって気持ちなんだ。

さっきまでの温もりは、夢なのか錯覚なのか。
どちらにしても、俺の中にいるあいつが見せた幻。

「…馬鹿野郎」

アメリカなんて、近いようで遠すぎるよ。

俺は、一人の布団で幻をかき消すように目を閉じた。



END



***
15さん!
お誕生日おめでとうございます!
幸せな沢イチを書こうとして失敗しました。
いや、沢北がアメリカに行った→イチノ寂しい→ラブラブ!ってことにしてあげてください…笑
いきなり送りつけて申し訳ありません…
気持ちは溢れんばかりに込めました←
生まれてきてくださって有難うございました!!
大好きですっ


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