「…あれ、皆は?」

周りを見渡せば知らない人しかいない人混み。
その中に俺は一人立っていた。

「…ま、迷子?」

山王工業高校、関東への修学旅行。
初日の今日は神奈川だった。
普段は秋田にいる俺達には慣れていない人波。
その人波に飲まれまいと必死になっていたら、クラスと離れてしまった。
てかこんなお洒落な街のど真ん中歩かなくても良いじゃんか!
そりゃ迷うだろ!!

「…まず連絡…って、携帯大きい荷物の中じゃんかよ…」

バスに戻ろうとしても道が分からない。
人混みで道を見る余裕もなかった(別に俺が方向音痴ってわけじゃない)。
ああ、俺ここで死ぬのかなぁ…
なんて情けないこと思うと、涙が出てきた。
周りの人がじろじろ見てくるけど、そんなん関係無い。
だって涙止まらないし、しょうがねぇ。

折角神奈川来たんだから…
一目でも、あいつに会いたかったなぁ…

「宗…」
「呼んだ?」
「呼んだ呼んだ……は!?」
「こんなとこで何してるの、栄治?」

そこには普通に立っている制服姿の宗が。

「な、何で」
「ちょっとそこの本屋まで参考書買いに来たんだけど、坊主の大男が泣いてるって騒ぎが聞こえてきたから」
「!」
「俺達、周りから見たら大男だし。坊主で泣き虫っていったら…って思って見に来たら正解だった」

宗は笑って手を差し伸べてくれた。
俺は涙を拭ってその手を取り立ち上がる。
懐かしい温もりが体全体に広がった。


「そういえば今日から修学旅行だったね」
「ん」

さすがにこの人混みだしもう手は離したけど。
でも、まだ手は熱かった。

「誰かと連絡取れないの?」
「…携帯バス」
「ああ、そっか…」

そして宗は普通に歩き出す。

「え?」
「何してんの栄治、行くよ?」
「ど、どこに…?」
「修学旅行生が行きそうな土産屋とか、色々」
「!」
「一人になんかさせたら、また迷いそうだしね。」
「…迷惑かけます…」

それから宗は、必ず俺の横を歩いてくれた。
見失わないように、ちゃんとすぐ傍を。
話も続けてくれて、俺はあまり周りに注意を引かれずに歩くことが出来た。
そしていくつか店を回った後、近くの公園のベンチに座る。

「宗」
「ん?」
「…御免な…」

いつも、迷惑かけて。
宗の地元でもこんなことして。
参考書買いに来たなら、勉強するつもりでいたのかもしれない。
足ばっか引っ張って、何か…

「めちゃ、格好悪いよな、」
「格好悪くなんかないよ」

宗は止まって俺の頬を両手で包む。

「沢北栄治は、格好良い。誰よりも」
「…宗」
「それに、誰よりも可愛い」
「っ何だよそれ」

いつもは強気で生きている俺。
自信あるバスケに生きているから、弱気になんかならないんだけど。

「コートでの栄治は誰よりも格好良いからさ。俺の前でのギャップが可愛い」
「宗は」

宗は、いつも格好良い。
コートでも俺の前でも(多分普段も変わらないと思う)。

「…正直、今だって二人でいるとドキドキするし」

情けない姿見せたくないって思っても。
泣いたり道に迷ったりして。
宗みたいな余裕もない。

「そんなことないよ」
「え?」
「俺だって」

俺は宗に抱き締められる形になって胸元に頭を押された。

「っ」

そこに響く、宗の生きている音。
俺と同じくらいの速さ。

「俺も、余裕ないよ。」
「う、嘘」
「え?」
「だって」

だって宗はいつも格好良い。
いつも俺の一歩前を進んでる。
なのに…

「好きな人の前では、格好つけたくなるもんじゃない?男なら」
「…っ!!」

その時サッカーボールが転がってくる。
近くでサッカーをしている子供達のボールらしかった。

「よしゃ、」

俺は立ち上がって、ボールをドリブルしながら走り出す。
そしてボールを取りに来た子供を抜かして傍のバスケットゴールにダンクする(ちなみに本日初ダンクだ)。

「おおお!!」

追いかけてきた子供から歓喜の声が上がる。

「おら、危なくないように遊べよ!」
「あ、ありがとう和尚さん!!」
「…和尚さん?」
「はげてるから!!」
「…良いこと教えてやろうか少年。ハゲが皆坊主な訳じゃね…って聞けよ!!」

俺の言葉を無視して「ありがとー」と言いながら仲間の元へ子供は走っていった。

「…格好良かった?」

俺だって男だ。
好きな人の前では格好つけたい。

「最後のが無ければ、完璧だった」
「…最後のは良いよ別に…」
「はは」

宗も立ち上がって、何となく歩き出す。
クラスメイトと遭遇したのは、それから三十分後のことだった。

「ご迷惑おかけしました」
「本当だぜ沢北、何回電話しても『只今運転しております』とか言われてよ」
「あー…バスの中に置きっ放しだから当たってるぜ!」
「つまんねーよ!!」

そこは一つの有名な土産屋で。
俺が皆と再会している間に宗は何か買い物してた。

「宗?」
「あ、栄治…赤と青どっちが良い?赤だよね?」
「…選択権無いじゃん…まあ赤好きだけどさ」
「じゃあはい、これ」
「?」

手渡された小袋。
その中を覗くと赤がモチーフのバスケットボール型を象ったストラップ。

「え」
「ちなみに俺は青ね」
「え、あ、代金…」
「良い良い、プレゼント。」

道に迷って助けてもらって。
一緒に友達探してもらって。
それでこんなプレゼントまで…

「っ」
「えい……っ!!」

俺は土産の棚の陰で宗の頬に口付けた。
うわ、温かいし柔らかい。
て、変態か俺。

「お、お礼…だか、ら。サ、サンキュ!!」

恥ずかしくなって俺は走って友達の所へ行く。

「顔赤いけどどした?」
「な、何でもねーよ!!」

自分でしておいてなんだけど。
当分全身の火照りは取れそうになかった。

「…格好良すぎるだろ。」

俺は貰ったばかりのストラップを鞄につける。
多分、これからも宗の格好良さにやられ続けると思う。

自分が情けなくたって、格好悪くたって。
それでも宗が傍で笑ってくれるのならば。
俺も笑顔で応えよう。



地味におまけ


END


***
ライ様からのキリリク神沢でした。
やー遅くなりましたすみません…
その割に駄文ですみません…
お揃いのストラップは赤青バスケだと思います^^
公園のシーンが楽しかったです、子供との絡みらへんが 笑
書き直し勿論受け付けます!!
有難うございました!!



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