冬と、恋と、先輩と、


「イーチーノーさーんー」
「何」
「…そんなに好きなんですか?」
「うん、大好き。愛してる。いなくなったら俺は駄目になる」

こんな台詞、たまには俺にも言ってくれたら良いのに。
少しむっときた俺が窓を開けようとすれば、きっと睨んでくる愛しい恋人。

「お前何やってんだよ」
「知らないんですかイチノさん、換気は大事ですよ」
「さっき五分間やったからまだ良いだろ」
「う」
「お前も入れよ、おこた」

うー、温かい。イチノさんのふんわりした笑顔と優しい声色。良いなあ、おこたは。イチノさんを独り占めできて。しかも拒否られなくて。

「今は氷柱が一番綺麗に見える時間じゃないですか、見に行きましょうよー」
「氷柱なんていつでも見れるだろ」
「じゃあいつなら一緒に行ってくれるんですか」
「夏」
「見れませんよー!!」

ねえねえイチノさん、俺寂しいんです。おこたにばっか構って。
折角俺の家に来てるのにイチノさんばっか良い思いして。

「じゃあ良いです。一人で行ってきますから」
「うん」
「少しは止めてくださいよー」

期待はしていなかったつもりだけど、あまりの即答ぶりについ溜息を吐いてしまった。
なんか凄く嫌だ。久し振りに二人っきりで過ごす休日なのに、つい溜息を吐いてしまう俺も、俺のこと放っておくイチノさんも。なんか全部嫌だ。

「…寒いなあ」

いつも部活帰りに歩いて帰っているはずの外は、いつもより寒くて。
まだお昼過ぎで夜よりは気温だって高いはずなのに。

「…そっか」

イチノさんがいるから、いつも温かかったんだ。
手を繋いだりすることは稀だし、ぎゅってさせて貰えることも少ない。だけど、イチノさんが隣にいるだけでポカポカしてくるんだ。心も体も。

「コタツに嫉妬とか、」

俺はひどく格好悪いと思う。自嘲の意味を込めて小さく笑いを零した。
だけど、こたつに占領されているイチノさんを見るのも癪で。
俺足元に広がる雪を掬ってきゅっと握り、屋根にぶら下がる氷柱目掛けて投げた。
鈍い音がして氷柱が雪面に落ちてささる。シャクっという音がした。

「ナイッシュー」
「、え」

いきなり降ってきた声に振り向けば、そこにはコタツに占領されているはずの愛しい姿があって。

「な、何してるんですか」
「お前が氷柱見に行こうって言ったんだろ」

傍の雪を素早く握り、イチノさんは俺に雪玉を投げてきた。

「、な、何すんですか!」
「さすがに氷柱を折るコントロールは自信無かったから」

イチノさんは優しそうに笑って俺が折った氷柱を拾った。

「ふっといな、この氷柱」
「一番太いの狙いましたもん」
「お前なあ、その能力勉強に生かせねえの?」
「無理です、楽しくないですもん」

断言した俺をじっと見つめて、イチノさんは言葉を零すように発した。

「おこたは温かかった」
「…はい」
「でも、何かが物足りなかった」
「…肉まんとか言うんじゃないでしょうね」

イチノさんは溜息を吐いて視線を逸らした。あ、ひどい。

「…足りなかったから、追いかけてきたんだよ」

寒いのも我慢して、な。
イチノさんの言葉に、俺は全身の体温が1℃上がった気がした。

「それってもしかして、俺…ですか?」
「…さあな」

ばさっと雪を両手でかけられて、俺は怯んでしまった。

「あ、イチノさん!」

雪を払いのけてイチノさんの姿を探せば走っていってしまってて。
俺は全力で追いかけると、イチノさんは笑顔で振り向いて言ったんだ。

「コタツ+お前イコール…」

イチノさんを捕まえる。耳元でその方程式の答えを聞いた。

「幸せ」

その言葉が発された唇を、慈しむようにキスをした。



END


***
冬の日の話の沢北編です!ゴトウ様に捧げます。
前回のと続編ではないのですが受け取ってください!
雪国…方面で暮らしているのでなかなか雪に関してはリアリティに溢れていると思われます(無駄な自信)。
イチノに振り回される沢北も可愛いかな、と思いまして。
なかなか思うように書けなくて申し訳ありません。
書き直し希望などお待ちしております!!
有難うございました!



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