※捏造上司います



「もしかしたら…倦怠期…なのかしら」

隣のデスクでパソコンと向き合ったまま言葉を発する山下さん。
周りには俺しかいないように見えたため、一応返事を返してみた。

「、と…山下さんと旦那さんですか」

山下さんは少し濃く口紅が塗りたくってある小さな唇を少しだけ尖らせて、ぐるりと体ごと俺の方を向いてきた。

「そうなのよ巣山君!!聞いてくれる?」
「…はあ」

失敗した、と後悔した頃には時既に遅くて。
知らない振りをしようとして立ち上がろうとすれば、腕をがっちりと掴まれた。

「旦那、私に飽きてきたのかしら」
「え」
「前までは毎日メールで“今から帰るね”とか朝や夜に“今日も愛してるよ”とかやり取りしてたっていうのに」

山下さんはわざとらしくハンカチを噛む真似をした。

「今じゃさっぱりよ」
「…はあ」
「巣山君は?同棲しているんでしょ?」
「え、ええ…まあ…」

教えた覚えはないんだけどなあ、とか何とか考えていると、顔を近付けられて耳元で低く囁かれた。

「こっちの愛は冷めなくても、あっちは冷め気味かもねー」
「そ、そんなことは…」
「あら、じゃあ倦怠期じゃないって言えるの?」
「え」

山下さんは意地の悪い笑顔を俺に向けてくる。

「あっちもまだあっつい心持ってるって分かるの?」
「け、今朝だって仲良くご飯食べていましたし」
「いきなりくることだって、あるんじゃないかしらー」
「な」

山下さんはニッコリと笑ってとどめの一言を発した。

「帰ったらもう、いなくなってるかもね」


＊＊＊


「おかえり巣山―」
「た、ただいま」

家に帰るとちゃんと栄口はいた、けど…
それだけじゃどうしても安心できなかった。
いつも通りに迎えてくれたんだけど、部屋儀に着替えられていない姿と手に持った鞄によってつい不安が横切る。

「今、帰ってきた…の?」
「ううん、ご飯出来てるし風呂沸いてるし。俺今から少し出かけてくるけど…自分でできるよね?」
「、え」
「行ってきまーす」

バタン、というドアが閉められた音は、破滅のサイレンにしか聞こえなかった。

「ど、どうすればいい!?」
��知らねーよ��

俺は良き(?)相談相手である阿部に連絡をしてみた。
栄口とも結構仲良い方だったし、一番良い相談相手ではあると思う。

「栄口が戻って来なかったらどうしよう…」
��戻ってくるだろ、栄口は��
「でもさ、栄口だって男なんだし…」

もしかしたら可愛い女の子の元へ行ってしまったかもしれない。
そう考えると、辛いよりも先にそれが普通なんだと思った。
それが普通であって、栄口が幸せになれる本当の道なのかもしれない。

そんなことを考えながら無言でいると、いつもの調子で阿部が電話越しに溜息を吐いた。

「…溜息吐きたいのはこっちだぜ」
��巣山、お前栄口と何年一緒にいんだよ��
「え?」
��男同士ってハンディは最初からあったろ。今更出て行きやしねえよ��
「今になって正気に戻ったって可能性も…」
��だから、揺るがないほどの本気で好きじゃなかったら…こんなに長くは続かねえだろって言ってんだよ��

栄口の笑顔が思い出される。
栄口はいつも笑顔だった。嬉しそうだったし楽しそうだった。

「…そうだよな」

信じよう、今まで様々なことを乗り越えてきた二人の繋ぎあった気持ちを。

「ただいまー」

その時玄関から愛しい声が聞こえた。

��帰ってきたみてえだな。余計な心配しなくても、お前らは十分幸せだよ��

呆れたように言った阿部は、電話を切ってしまった。
お礼さえ伝えていないのに。

「おかえり」
「ただいまー…あれ、ご飯食べてなかったの?」
「…お、おう」
「お腹空いてると思ったから準備しておいたのに。じゃあ一緒に食べようか」
「え?」

栄口はニコニコしながらご飯を盛り始める。

「待っててくれたの?」
「…や、栄口どこ行ったんだろうって気になって」
「あ、これだよこれ!」

そう言って栄口が掲げたものは、ケーキ家の箱だった。

「今日はほら、二年目の記念日でしょ?」
「、あ」
「あ、忘れてたんだー!!」

そういえば今日は同棲二年記念日。
俗に言う結婚記念日みたいなものだ(男同士だから何とも言えないけど)。

「お祝いのケーキ買い忘れてたから買いに行ってきました」
「…有難うございました」

色々あったからうっかり忘れてしまっていた。

「今度何かお詫びとお祝いを用意します」
「楽しみにしてるね!…今は、何も無し?」
「、これで勘弁してください」

ケーキよりも甘いキスを、何度も繰り返して贈る。
栄口は「嬉しいプレゼントですよ巣山さん」と言って笑った。

今日の話を飲み会で阿部から聞いた栄口が、俺への愛を夜通し語ってくれるのは…もう少し先の話。



END


***
同棲楽しいですね!笑
人目を気にせずイチャコラさせられるのが凄く嬉しいです^^
阿部君(らーぜ)+巣栄が大好きですっ