「…えっと、あ、あった!」

夏休みといっても球児にはあまり関係ない。
毎日夜遅くまで白球を追って泥だらけになって帰宅する。
そんな日常は全く普段と変わらなかった。

「休みの日くらい、のんびりしたかったんだけどなあ…」

まったくと言って良いほど休日がない野球部の数少ない休日。
そんな日に俺は教室へとやってきた。
忘れた課題を取りに来たのだ。
部活内で課題をやる時間は取られているが、なかなか教室へ足は運べなかった。
だから俺は休日を使って取りに来たわけだけれども…

「あれ、栄口?」
「あ、先生!!」

自分の名前を呼ぶ声に振り向けば、教室の入口に愛しい姿が立っていた。

「巣山先生も出勤ですか?」
「そう、夏休み明けの試験問題作らないとって思って来たんだけど。教室の電気ついてるのが見えたから誰だろうと思って」
「うわ、先生してますね」
「そうです、先生なんです」

巣山先生は盛大に溜息を吐いてみせた。
真夏の教室はどうしても暑くて。
誰にも使われていないせいか、むしむしは普段以上だった。
汗が頬を伝う。

「課題忘れていくとか、お前らしいな」
「…忘れたの数学だったんだけど」
「え」

巣山先生は苦笑しながら手元にあったビニール袋を傍の机に置いた。

「アイス、食べないか?」
「アイス?」
「うん、先生誰かいるかなーって思って買ってきたんだけど」

誰もいなかったから、と先生は肩を竦めた。

「食べたいです!」
「溶けないうちにな」
「はいっ」

冷たいアイスは火照った体を芯から冷やしてくれる。
一口、また一口と、止まらずに口へ運んだ。

「栄口、」
「え」
「ほら」

スプーンを目の前に差し出される。
その上には先生の食べていたアイスが一掬い乗っている。
うわ、美味しそう。

「…いただきます」
「どうぞ」

俺はそのスプーンにかぶりつく。
初めての「あーん」です、はい。

「美味い?」
「うん、美味しい」
「栄口はしてくれないの?」
「、え」

いつもより爽やかに笑いかけられれば逆らえるはずもなく。
俺は力なくスプーンを先生の口元へ持っていった。

「あ、あーん…」
「!」

カシャン

俺はスプーンを机の上に落とす。
スプーンを出したはずなのに、いただかれたのは俺の唇だった。

「、な!」
「悪い悪い、美味しそうだったから」
「…もう、あげない!」

精一杯の反抗で、アイスをあげないことにしたんだけど。
先生には全く効かなかったらしい。

「別に良いけどな」
「え」
「多分栄口のここの方が美味い」

そう言って先生は俺の唇に人差し指で触れた。

「…先生、教師失格!!」

折角火照りが取れたのに、さっき以上に体が熱くなってしまった。



END


***
ラストでしたー。楽しかったです!!
きっと巣山先生は栄口君を来る途中に見かけてアイスを買って偶然を装ったはず 笑
どっちも余裕なんかないんだろうな…と思います。
有難うございました!!

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