「あー…雨かあ…」
少し外からの音に気付き窓を見やれば雨。
俺は採点途中の答案用紙を赤ペンで軽く叩いた。
本当なら今日は栄口と一緒に昼食を食べるはずだったのに、使おうとしていた教室で三年生の担任団が会議をするらしい。
いつもなら人が来ないのに、今日に限って…
「巣山先生―」
ほら、いつものように栄口が職員室まで迎えに来てくれた。
「あー…あそこ今日使うんだって」
「え、そうなの?」
「だから、また面談は違う日にするか?」
「面談」って言葉は勿論カモフラージュ。
俺からの断りに、栄口は残念そうに俯いた。
こんな顔をさせたいわけじゃないのに、心が痛む。
どうにかしてやれないものか。
「あ、いいところありますよ」
「え?」
そう言って栄口は俺の手を引いて職員室から連れ出す。
一体何処に連れて行かれるんだろう。
ていうか、校内であまり人に見られない場所なんて他には…
「屋上行こうよ」
「屋上?人沢山いるんじゃねーのか?」
「この天気で?」
「…あー」
そういえば雨が降っていたんだ。
この天気で屋上にはまず行かないだろう。
「裏のほうに少し屋根あるし、これ位の雨なら大丈夫じゃない?」
栄口はニコッと笑った。
俺はこの笑顔にどうしても弱いんだよなあ…
「分かりました、行きましょうか栄口君」
「あ、何ですかその言い方―」
「ほら、入るぞ」
屋上のドアを開けて二人で裏まで回る。
ほんの少しだけ濡れてしまったけれど、雨の屋上も悪いものではなかった。
景色は少し滲んで見えて新鮮だったし、誰もいない。
「弁当広げるスペースあるか?」
「うん、大丈夫です」
「なら良かった」
俺達は弁当を平らげて、並んで少し話をする。
「先生」
「ん?」
「雨の日はまた、ここで食べましょうね」
「…ああ、そうだな」
栄口の手を取って応えると、栄口は少しだけ照れ臭そうに笑った。
「先生?」
「ん」
「 」
「あ、御免…雨の音で聞こえなかったからもう一回言って?」
「…もう言わない」
栄口は唇を尖らせて言った。
俺はその唇にキスを落とす。
「教えてよ」
「…教えませんってば」
本当は聞こえていた、「だいすき」って四文字。
ただもう一度聞きたくて意地悪してしまった。
「栄口」
「え」
「…好きだよ」
「!」
栄口は一瞬驚いた顔をして、そしてすぐに俯いた。
「雨で聞こえませんでした」
「嘘つけ」
「本当ですっ」
ムキになった栄口が愛しくなって、俺は少し冷えた恋人の体をぎゅっと強く抱き締めた。
END
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私学校の屋上行ったことないです…
いつも屋上がないか立ち入り禁止…
憧れるシチュエーションですよね!笑
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