「あれ、何処やったっけ」
いつもは花井に任せている鍵当番だけど、自主練していたから今日は俺が閉めていくことになっていた。
「鍵、無いのか?」
隣にいた巣山先生が心配そうに俺を覗く。
巣山先生は俺の自主練に付き合ってくれて、今は一緒に着替えていたところだ。
「うん…花井から貰って…グラウンドに落としたかなあ」
「真っ暗だな」
「うわ、大変そう…」
朝になった方が見やすくて良いのかもしれないけれど、そんなことをする勇気はなかった。
この間女子バレーボール部の部室に侵入者が入ったばかりだと聞いた。
運動着とかを盗んでいったらしいから、開けっ放しにしておくわけにはいかない(野球部なんて盗むような魅力あるものはないけど)。
「巣山先生、先に帰ってください」
「何で」
「…遅くなりそうなんで」
俺は携帯を取り出して電話帳で自宅を検索する。
“もしもし”
姉が電話に出て、「あ、勇人だけど」と言おうとしたら電話が手元から消えた。
ふと目をやれば電話は宙に浮いている。
「もしもし、顧問の巣山です」
え、という声が上手く出せずに口元で消え去った。それだけ驚いたのだ。
「な、何言って」
「今から少し自主練のフォーム確認などをしたいので、もう少し遅くなります」
“わ!わざわざ有難うございます”
明るい姉の声が電話から漏れて聞こえてくる。
家族と恋人が電話で話してるって、なんか変な感じ…
「勇人君は自分が家まで送り届けますので、心配しないでください」
“有難うございます、お願いします”
「では」
「え!?」
ガチャッ
「俺に替わってくれないの!?」
「話ついたし、俺のこと信用してるし…」
「う」
「それに、早く探さないと、な」
大きな手で肩をそっと叩かれる。
「先生も、探してくれるの?」
「ああ、顧問だし」
「あ、そうだよね…ご迷惑をおかけします」
「それもあるけど、やっぱ一番は…」
先生は屈んで俺の耳元に唇を落としながら囁いた。
「大好きな人だから」
先生は、たまに大胆なことを言ってくるから心臓に悪い。
まあ、それも全部含めて好きなんだけど。
「最近あんま二人きりになれなかったし、鍵見つかるまでは少し嬉しい時間過ごせそう」
「、もう」
二人で鍵を探す。
少し情けない行為なんだけど、考え方次第では気持ちも変わる。
「お、あったぞ」
先生がそう言いながら俺の元に鍵を持ってきたのはそれから一時間後のことだった。
「もう遅いしなあ…」
「あ、電話貸して栄口」
「、え?」
「あ、もしもし。はい、巣山です、終わりました。それで、夜も遅いんで今日は自分の家に泊まらせようと思うんですが…あ、良いですか、分かりました。ご迷惑かけてすみません、あ、いえいえ…では失礼します」
「ちょ、」
電話を切ると、先生は俺を抱っこして車へと運んだ。
「せ、先生!?」
「足ガタガタいってんじゃん、ちゃんとマッサージした方が良いと思って」
恋人である先生だけど、その前にちゃんと尊敬できる先生。
それが巣山先生であり、俺の恋人である。
俺は素直に頷いて「有難う」と言って先生の胸元に顔を埋めた。
END
***
巣山先生は栄口家のヒーローです 笑
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