「うー…辛いー」

見上げれば保健室の真っ白な天井が見えるだけ。
普段は気にならない、蓋を閉じられた消毒液の匂いにまで敏感になる。
ああ、今日部活に行きたいなあ…行けないか…

「具合はどうだ栄口?」
「、巣山先生!?」

あれ、今授業中のはずじゃ…

「可愛い教え子に熱があるってのに放っておけないだろ」
「…すみません」
「謝るなって、俺が来たかっただけなんだから」

巣山先生はそう言って俺の頭を優しく撫でた。うわ、温かい。

「まだ熱いな、何か食べたいものあるか?」
「…え」
「今保健の先生いなくてさ、何か買ってくるか?」
「でも、今授業中でしょ?」
「大丈夫だって、今の時間持ってる授業はテストさせてるから」
「!!」
「それに」

巣山先生は俺の耳元で囁くようにして言った。

「こういう関係だから、こんな時位しか二人で会えないだろ?」

そうなんです。
数学担当・野球部顧問の巣山先生とはそういう関係なんです。
ただ先生と生徒って関係だから堂々とできなくて(男同士だからってのもあるけど)。
でも先生は俺を大事にしてくれるし、俺も先生が大好きで。
だから全然辛くなんかないんだ、寧ろ毎日幸せ。
でも何故か野球部員にはばれていたりする。
もう一人の顧問の浜田先生と泉も仲良いからあんまり珍しくないのかも。

「別に、授業中じゃなくても…」

放課後なら、よく会っているじゃん。

その言葉は先生の唇に飲み込まれた。
声の代わりに小さな音を立てて唇が離れていく。

「、せん」
「元気になるおまじない」
「…移ったらどうするの」
「したら今度はお前が看病してくれるんだろ?」
「…してやんないし」
「はは」

そしてもう一度頭を撫でられた。程よい温かさが全身に広がる。

「おやすみ」

その温かさの中で、そんな声が聞こえた気がした。

目を覚ますと先生の姿はなくて。
結局あれは夢だったような気にもなった、けど。
でも、夢じゃなかったように思ったんだ。

『放課後迎えに来るから、大人しくしてろよ』

一枚の紙切れと一緒に、大好きなプリンが置いてあったから。
俺はその温かさに触れ、少しだけ温くなったプリンを口にした。



END


***
甘やかす巣山君と甘える栄口君がすごく愛しいです。

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