「なんで手なんか繋ぐ必要があるの?」
「え、だって俺達付き合ってるじゃないですか」
「…だから、それは遊びっていうか冗談っていうか…」
「遊びでも冗談でも、今は付き合ってるんですよね?」
「え、だからそれは…」
いつものお茶らけた笑顔で言われたなら適当にあしらえたかもしれない。
でも、今の沢北の顔はいつにもなく本気の顔のように思えた。つまり、何も言えない。
普段だって全国的に有名な選手に囲まれて少しだけ肩身が狭い思いしてるっていうのに(あんまり気にすることはないけど)。なのに、こんなイケメンから真っ直ぐ真剣な顔で見つめられたら俺はどうすれば良いって言うんだ。
「どうなんですか、イチノさん」
低いけど凛とした綺麗な声がすっと耳に入ってくる。
その声に誘導されるように、俺は自然と右手を差し出していた。
「わ、良いんですかイチノさんっ!!」
その途端に沢北はニコニコしだして俺の手を握る。あ、いつもの沢北だ。
怖いくらい真剣に見つめてきたあとの笑顔は、いつもよりも眩しく見えた気がした。
「イチノさんの手って冷たいんですねー」
「俺低体温だもん。お前の手は温かいなあ…」
「そうですか?」
坊主頭のバスケ部員が二人で手を繋ぎながら帰ってる図は、俺は見たくない。もし周りが見たらどんな反応するんだろうって考えたら無性におかしくなって口元が緩んだ。
「あ、何笑ってんですかイチノさん」
「や、平和だなーって」
「…そうですね、平和です」
ドキン
大人っぽく笑った沢北の顔に、男だけど少しだけドキドキしてしまった。
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