「まあ、頑張れよ」
だなんてイチノさんに言われてしまった。このままじゃ引き下がれない。
「イチノさんは、好きな人とかいないんですか?」
また顔を歪められた。そんなあからさまな態度すげー傷つく。
「いないよ、付き合ったこともないし…愛とか恋とか分かんないし」
「そうなんすか」
「お前は、今まで何人と付き合ったんだよ」
小さな溜息混じりに聞かれる。俺そんなたらしに見えるのかな。
「いないっす、一人も」
「え」
「俺も今の人好きになるまではバスケ一筋で。だから誰とも付き合ったことなんてないんですよ」
イチノさんは細い目をいっぱいに開けて驚いていた。あ、今の顔すげー可愛い。
「マジか」
「マジです」
そんな夢みたいな話あるんだな、とイチノさんは頷いた。
「だから、付き合うとかっていう感じ分かんなくて…」
「そりゃあそうだろ、俺もだし」
もしかしたら、今しかないのかもしれない。
「イチノさん」
「ん」
「俺と付き合ってみませんか」
イチノさんは今まで見た中で一番驚いた顔をしてみせた。
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