「イチノさん」

端正な顔で近づいてくる後輩の顔には、ニコニコという言葉がぴったりの笑顔が浮かんでいた。
なんだこの顔。気持ち悪い。
俺は盛大に顔を歪めてみせた。

「あー、何なんですかその顔―」

俺だって傷つきますよー、なんて言いながら顔を両手で覆う後輩。
体も手も大きいからあまり可愛げないポーズに見えた。

「で、何の用だよ」
「もうさっきのことバレて絞められました」
「俺じゃないけどな」
「分かってますって、イチノさん」

そう言ってまた笑う沢北は、男である俺から見てもやっぱり格好良い。
女から見ても、やっぱり格好良いんだろうな、こいつは。

「お前いつもああ断ってるわけ?」
「…だって、好きな人いるんだから仕方ないじゃないですか」
「好きな人って、誰?」

別に深い意味で聞いたわけじゃなくて。
ただ単にこんな馬鹿だけど格好良い奴が惚れる人がどういう人か気になった。

「片想いなんであれなんですけど」
「片想い?」

こいつに片想いなんて似合わない、伝えれば簡単に落ちそうなのに。

「だって、話せるようになったの本当に最近ですし…俺のことあんまり好いていないのかなって思ってましたから」

困ったように笑う後輩が、少しだけ切なかった。





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