「ごめん、俺アメリカ行くから」
また同じシチュエーション。ごみ捨て。裏庭。沢北と女の子。告白。
だけど、今日は沢北の声で理解できない言葉が発されていた。
いや、意味は分かるんだけど…何て言うか、アイツがいう台詞じゃないって言うか。
「で、でも今男の人と付き合ってるんでしょ?」
「え、あ、いやー…」
「それなら、絶対に女のアタシの方が良いでしょ!?」
ズキン、と胸が痛んだ気がした。え、あれ、なんでだろ。
だけどその疑問は大きな音によってかき消されてしまった。
ドン!!
壁に沢北が拳をぶつけた音らしい。小さく女の子の悲鳴が聞こえた。
「っ、な、何よ」
「イチノさんの方が、キミよりずっと魅力あると思うけど」
いつもより数段低いトーンで沢北は女の子へ言った。すごい迫力。
女の子は逃げるようにして去って行った。あれ、この状況って…
「、イチノさん!?」
やっぱり、前と同じパターン。違う事と言ったら…そうだ、さっきの…
「また聞いてたんですか?」
沢北は困ったように笑った。
「不可抗力だよ。俺の話してんのに出れねえだろ。てかお前好きな人いんのに俺と付き合ってるって噂流れてて困るだろ?」
「あー…大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだよ」
ヘラヘラ笑う後輩は、いつもと同じ沢北だった。さっきの沢北は何処へ。
「なあ沢北」
「はい?」
「…アメリカって、何?」
沢北の顔が一瞬強張ったような気がしたのは、多分気のせいではなかった。
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