「言えない、なあ」
「ん、何か言ったか?」
「あ、いや」

ぼんやりと昨日見た英単語を頭に並べてみる。完全に消える直前位のうろ覚えだけど。
何だっけ、水の綴りはwuootaaだったっけ?

「なんか今日、ぼーっとしてるな」
「そんなことないですよ、」

結局英語の辞書持って行っても何もしていないに等しい。
そういえば深津さんや河田さんに口止めしていないや。
まあ言ってないようだし、言わないでいてくれるとは思うけど。

「あ、明日も一緒に帰りましょうね」
「…毎日、帰るんだろ」
「はい!」
「…じゃあいちいち言わなくても良いだろ」
「えー、だってイチノさん頑固だから何も誘わなかったから先に帰った≠ニか言いそうじゃないですかー」
「前待ってただろ?お前も頑固だよなあ」

乾いたような笑いの後、また沈黙が続く。
小さく口を空けて呼吸をするイチノさんの横顔は、どうしようもなく愛しく感じた。
もし、今イチノさんにキスしたら…

「ねえイチノさん」
「ん?」
「俺達の恋人ごっこって、どこまでやって良いんですか」
「、え……っ!?」

一瞬広がる温もり、湿った感触、柔らかい唇。

「…こういうのも、ありですか?」

唇を離しても、イチノさんは大きく目を見開いたまま固まったままだった。




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