「、え」
「何驚いてんだよ」
「っだ、だって」

部活が終わって、イチノさんに「一緒に帰りましょう」と誘おうとしたけど周りの(主に深津さんとか河っさんとかの)ガードが固くて近付けなかった。
着替えている時に制服の上着を教室に忘れたことに気がついて、走って戻った。
ああ、イチノさんは今頃三年生に囲まれて帰路についているんだろうななんてしょんぼりと思いながら、真っ暗で怖く感じる廊下を全力で走って昇降口へと向かった。
そしたら昇降口の、俺のクラスの下駄箱の前にぼんやりと浮かぶ白。

「帰ったと、思ってました」

その白は、イチノさんの顔だった。幽霊だって思ったことは内緒だけど。

「うん、帰ったフリしたんだけど。間に合って良かった」
「深津さん達を撒いてきたんですか?」
「そういう言い方やめろよ。帰ったフリして戻ってきただけだよ」

そんなこと言うなら俺もう帰るぞ。と言いながら立ち上がったイチノさんの腕を慌てて引っ張って引き止める。駄目、帰っちゃ。一緒に帰る。

「…早く靴履けよ」
「あ、はい、履きます履きます」

慌てて下駄箱から靴を出して履き始める。そして聞いてみた。

「なんで待っててくれたんですか?」
「…え」
「今日は約束していないのに」

明日のことは(多分)約束したけど、今日は言う前に色々と邪魔されて言えなかった。
知らない振りして帰れば良かったんじゃないかな(嬉しいけど!)。

「…なんとなく、だよ」

そう言ったイチノさんの顔がほんのりと赤く見えたのは、傍にあった何色もで彩られたパチンコ屋のネオンのせいだったのだろうか。




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