「ほらほら!早く早くーっ!」
遠くで夏希さんが呼んでいる。その声さえも今の私には届いていない。
『帰りたい帰りたい帰りたい』
「いい加減諦めたら?大体無理だよ、今から帰るの」
『それは分かってるけど……』
嫌だ。それしか頭にない。なんつーか、その。この夏の時期、陣内家って気紛れがいたりするから、「暑いなーぁ。……より、海行こう、海!」的なノリで来ちゃったわけで。私も別にいいよなノリでついてきてしまった。今となっては後悔しか残っていない。(いや、だって。こんなことになるとは)
「ほら、僕たちも行くよ」
『あっ!まっ……』
佳主馬に強引に手を引っ張られたから、体を隠していたタオルが落ちる。あーーー……っ。顔が線香花火の様なくらい真っ赤になっていると思う。
「……名前、それ反則でしょ」
私から目を反らした佳主馬も私と同じくらい真っ赤だった。(これ超恥ずかしい)私が来ているのは、ちょっと刺激が強いビキニ。夏希さんに無理矢理着せられた。あと脅されもした(色々)。
『わ、わたしは…べ…つに…着たく、て着たわけじゃな、くて』
こんな露出してるのを佳主馬に見られるとか、恥ずかしすぎてうまく口が回らない。
「と、とにかく海、入るよ、早く!」
『わ、わかってるってば!』
佳主馬がいきなり怒鳴るから対抗してしまった、あれ?(似合わなかったのかな、コレ)少しシュンとなった気がした。
海に入ってさっきよりは佳主馬に見られることがないという事に少し安心する。でも佳主馬には見てもらいたい、なんても思っちゃう。似合ってないなら似合ってないって言ってくれればいい。それだけのことなのに、佳主馬は何も言わない。むしろ目を合わせてくれない。
『……佳主馬は一人で泳いでればいいよ』
「は?」
『私、健二さんたちと遊んでくる!』
バシャバシャと体の動きを重くする海水を分けていくようにして、ビーチバレーをする健二さんと夏希さんの元へと向かった。
『健二さん、夏希さん、混ぜてください、今すぐ』
「どっどうしたの名前ちゃん」
びっくりしている健二さんは"いい"と言わない。早く。佳主馬が来る前に。
『お願いします』
「ええええええ――っとおおお、あああああああああののののっ」
どもりすぎな健二さん。どうしてそんなにどもるのだろうか。ハッキリしてください。(こうなったら)力づくでも、と健二さんの腕に抱き着く。すると健二さんはいいよって……あれ?
「あああああああのおおおッ!!!名前ちゃん…っ…」
『健二さん?』
耳までタコのように真っ赤になったかと思えば、消え入るような声で「ごめん…」と言って…………鼻血を出して倒れた。
『ウソっ!!』
ちょっと待ってよ健二さん!!佳主馬が来ちゃうじゃん!!(ああああ……っ)ゆさゆさとゆすってみるが(だめだ。気絶してる)助けを求めた本人は気絶。はぁとため息をもらしたとき、横から伸びた腕によって立たされる。
「なんで勝手にいなくなんの」
『なんでって…』
講義しようと口を開いたのを阻止するかのように佳主馬に引っ張られていく。胸辺りまで浸かる深さまで連れて来られた。今はものすごく気まずかった。しばらくの沈黙が続く。それを破ったのはどちらかが発した言葉ではなく、佳主馬の行動だった。思いっきり引き寄せられて佳主馬に抱きしめられる。
「名前の水着姿……誰にも見せたくない」
『ええっ?!何それっ?さっき水着姿見たって何も言ってくんなかったじゃん!!私の方だってみてくれなかったし…!』
「それはっ、名前の水着姿見てたら変な気持ちになるから……」
『は?』
「名前のほうこそ、健二さんが安全だと思ってあっち行ったけど、健二さんどこ見てたかわかる??名前の胸見て気絶したんだよ?!名前胸大きいから悩殺もんだし……」
『ごめん、佳主馬。一気に喋り過ぎ』
佳主馬が声を荒げて喋る度に強まっていく腕の力に顔をしかめる。力が弱まったと思えば、今度はいきなりのキス。佳主馬は手が早かったからキスには慣れた。でも貪る様なキス。
『っ……はぁっ…かず、ま』
「名前が、悪いんだから」
「僕のって印」そう言って佳主馬は私の首に顔を鎮めた。直後、ちくりとした痛み。
『なに、して』
「何ってキスマークだけど」
どこでそんなの覚えたんだと言いたかったけど、仲直りできたからよかった。ほっとしたら佳主馬の顔はもっと下におりていく。
『ひゃ……っ』
胸の辺りにもキスマークを着けていた。
「もっと付けたいんだけど、な」
クス、と微笑して上目遣いで見上げてくる。うっと言葉に詰まったとき、また顔を鎮める佳主馬。(いつまでやるんだ、ど変態…!!)
君と、いつかは越える壁。
▼はんせい
リサコ様リクでした。陣内家全員出すことができなくてすみません!
佳主馬はSであると信じたい。
Thank you!
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