パタンと読み終わった本を閉じる。しばらくの間誰の手にも触れていなかったためか、閉じた時に少しだけ埃臭さが周りに広がった。
「新一と蘭はもう家に着いた頃かなあ」
故意に二人を一緒に帰らせたのは何を隠そうこのわたし自身で、正直あまりいい気ではないのだけれど、わたしがいたら二人共いつまでたってもくっつかないんだから。
最近では登下校全てにおいてほとんど行動を共にしているのが蘭と新一とわたしの三人だったりする。
わたしがいればすぐくっつく二人もくっつくはずがない。わたしという邪魔者がいるんだから。
「4時48分……か」
時計を見ればほとんどの学生は帰っている時間。部活が忙しいところは8時くらいまでやるくらいだから別にそんなに静かってわけでもないんだけど、こうやって一人で残る図書室も悪くない。
少しだけ残ってる本の埃臭さとか、この静けさに気を許して本棚にある本たちが喋りかけてきているような変な気持ちになったりする。
これだから本は大好きだ。
本の虫と言われても構わない。
新一が推理小説好きなのもなんとなくわかる。
わたしだって好きだし。
新一のことも………
「すきなんだけどなあ……」
ぽつり、零した言葉はこの静けさを保った図書室の中に呟かれ、本の中に吸い込まれていくはずだった。
「なにが」
「え?」
「何が好きなんだよ」
「しん、いち……?」
本の中に吸い込まれ文字となる前にドアの方から声が聞こえてきた。
その声の主がさっきまでわたしが頭の中に浮かべていた本人だったから尚更びっくりだ。
だって彼は蘭と、
「先に帰ったはずじゃ…」
「蘭に聞いたぞ。俺が蘭のことが好きだって思ってるとか」
「それは本当のことで…」
「おめーが、気にして二人で帰らせたこととか」
「……っ」
「一人で図書室にいることとか、俺にはわかんだよ」
その時、トロピカルランドで思わず逃げ出してしまったわたしを追いかけてきてくれた新一と重なった。
汗が、ぽた、と下に落ちる。
心臓がひとつ大きく跳ねる。
「なっ……なんで、蘭とそのまま帰らなかったの」
「つばさのことだから6時くらいまでここに居るつもりだったんだろ?今はちょうど一冊本を読み終わったってとこか?おめー、読みかけの本は閉じねえもんな。それでこれから一時間くらい寝るつもりなんだろ?」
「なんで戻ってきたの」
「そりゃ、おめーが変な気遣いをするからで……」
「なんで戻ってきちゃったんだよ……!」
「つばさ…?」
せっかくわたしは蘭と一緒に帰らせてあげたのに、新一はへんな、無駄な、推理までしてわたしを迎えに来てくれた。
嬉しいよ。
素直に嬉しいんだけど、期待しちゃうじゃんか。
蘭は新一が好きで
新一は蘭が好き。
自分の気持ち押し殺して、我慢して起こした行動なのに、勇気を出したのに…っ、なんで新一はそうやってわたしをかき乱すの。
ちがう、新一は悪くない。わたしが新一を好きだから。大好きだから、誰にも渡したくないとか、すごく汚い感情までもってるから。
「…っこんなに…!好きなのに……っ」
「……、つばさっ…?」
「新一のことが……すきなのに………!」
「っ、」
「この、バカ…っ!推理オタクの、ばかっ」
とめどなく溢れ出してしまった、抑えきれない涙と感情にわたしはどうしていいかわからなくなって、あの時と同じように
逃げてしまったんだ。
君が僕を掻き乱したら
20121002
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