「えーっと、確かここに…」



半ば勢いでお願いしてしまったわけだけど、夏希ちゃんの目が新しいオモチャを買ってもらった子供のように輝いている。今にも鼻歌を歌いだしそうな夏希ちゃんにどうしよう…!と頭を抱えたくなったのは数分前の出来事だ。
浴衣着付けてもらうのはいいとして、



「誰と行くんだ…!」

「独り言?」

「うわぁ!?」

「浴衣あったよ。立ってー」

「あ、うん」



去年大おばあちゃんが作ってくれた浴衣は、白地にピンクと薄赤色の牡丹柄。大人っぽくて、着るのに少しだけ抵抗がある。いや、ほんとに、ちょっことだけ。
でも改めて見ると可愛いなぁ、なんて。大おばあちゃんってセンスあるし浴衣作るの上手だし、やっぱりすごいや。そんな事を考えながら手際良く着付けてくれる夏希ちゃんを眺めてたら、ふふんと笑われた。



「なーに?」

「別に?誰と行くのかなーって」

「それは…、うえっ」

「あれ、きつく結びすぎた?」

「だいじょーぶ。急だったからつい」

「そう?緩く結ぶと着崩れするかもしれないから我慢してね」

「はーい」




***




「できたよ!」

「ありがとー!どう、かな?」

「すっごい似合ってる!」



一年ぶりに着る浴衣がどうも気恥ずかしくて、顔に熱が集まる。例えるならそう、髪をばっさり切った次の日、教室に入るのを躊躇うようなあのドキドキ感。その例えがぴったりくるかも。注目されるのは恥ずかしくて嫌だけど、気付いてほしいって気持ちにそっくり。髪も少し弄るねーと笑う夏希ちゃんは凄く楽しそうだ。彼氏さんとお祭り行けばいいのになぁ。



「名前の髪、サラサラで羨ましいな」

「夏希ちゃんの方が綺麗だしサラサラじゃん」

「それが意外と傷んでるのよねー」

「うっそだー!」

「ほんと!あ、ほら動かない」

「ごめんなさーい」

「……はい、できた!」



器用な夏希ちゃんに感謝しながら、鏡に映る自分に口がぽかんと開いた。我ながらアホ丸出しな顔である。目の前に映るのは確かに自分だし、特別に化粧をしているわけではないんだけど、別人じゃないかと疑いたくなる。誰だこれ。本当に私なのか。浴衣も髪も可愛いな。これ本当に私なのか。
しばらく鏡とにらめっこしてたら夏希ちゃんに声をかけられて、ハッと我に返った。



「どうせ名前のことだから、これ私なの?って思ってたんでしょ」

「だって別人みたい…」

「それは名前も大人に近付いてるってことじゃない?」

「…え?」

「去年より少しだけ大人になったと思うよ?」

「そう、かな」



満面の笑みで大きく頷く夏希ちゃんに、少し嬉しさを覚えた。佳主馬だけじゃないんだ、私も成長してるんだ。置いていかれてないんだ。夏希ちゃんの言葉には妙な説得力があって、顔が綻ぶのが分かる。行っておいでと背中を押されたのに頷いて返すして、心の中でありがとうと告げる。きっと夏希ちゃんには何もかもお見通しなんだろうなぁ。自分のことは鈍いのに、なんて思いながらあの場所へ向かう。きっとそこにいる。知らず知らずの内に、早足になる自分がいた。





****
浴衣の柄、センス無さすぎてすみません。あと妙なフラグを立てた気がします…!
それじゃあ碧子さんにパス!




20120808 青谷


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