「待ってよ佳主馬ー!」

「やだ」

「ちょ、歩くの早いってば…!」

いつもは私の歩幅に合わせて歩いてくれる佳主馬が、今日はやけにはや歩きだ。小走りしなきゃいけない速さって…。必死に追いかけてるのにその距離が縮まることはなくて、逆にどんどん離れていく。 待って、置いていかないで。まるで小さい子どものようにそう言っても、聞こえていないらしい佳主馬は遠くなっていって、それから、

「っ!」

やけに現実味のある夢というかタイムリーというか。寝る前まで思ってた事が夢になるなんて初めてだ。
枕がしっとりと汗で濡れている。部屋の熱気が肌にまとわり付いて気持ち悪い。加えて喉も渇いている。

「……お茶飲もう」

真っ暗な廊下がさっきの夢を連想させる。ひんやりとした廊下が涼しくて、何だか怖い。これで人が出てきたら洒落にならないくらい叫びそう。ああああ、怖い。

「あ?名前?」

「わ、わわ侘助さん!?」

「しーっ」

「あ、うん」

「なにやってんだ」

ひょっこり廊下の曲がり角で鉢合わせた侘助さんに思わず叫びそうになった。大声は出たけど。夢見が悪くて、と小声で伝えると興味無さげにふーんと言われた。だったら聞くなこんちくしょう。

「侘助さんは?」

「あー、俺も似たような感じ」

「侘助さんでも夢見るんだー」

「俺だって夢ぐらい見る」

「さいですか」

「ガキは早く寝ろ」

乱暴に、けれど優しい手つきで頭をわしゃわしゃ撫でられる。手、おっきいなー。さすが大人。いつか佳主馬もこんな風になるんだ。……なんか、やだなぁ。

「…ねぇ、侘助さん」

「あ?」

「佳主馬も、いつか大人になるのかな?」

「そりゃいつかはな」

「……私だけ、置いていかれそう」

「名前…」

「…なんちゃって!じゃあ私、お茶飲みに行くんで!おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

いつかは佳主馬も大人になるんだ、なんて考えたら心にぽっかり穴が空くような、どうしようもない寂しさが込み上げてきた。この暑さもまとわり付く熱も寂しさも、全部溶けちゃえばいいのに。
そしたらきっと、静かに眠れる気がする。

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近くにある存在が急に遠く感じることってあると思うんです。それが寂しさだったりもどかしさだったり。

はい、そんな感じで碧子さんよろしくです!

20120802 青谷


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