平和島くんに連れられて保健室……というのが普通の展開のはずがなぜかわたしは岸谷くんの家に来てしまった。 正しく言えば強制連行されてしまったのだ。 丁度あの時点で授業も終わっていたのと、わたしとしては接触するという目的以上にいい収穫なわけで、好都合だから逆によかった。 04 家に入ってすぐソファーに座らせられ、隣にボスンという音を立てて平和島くんが腰を下ろしたため、少し体が浮いてまた沈んだ。 しばらく黙って手当てをしてもらっていたけど、岸谷くんが消毒のためにつけた薬が染みて少し声を上げてしまった。 「…っも、ちょっとさ…傷に優しい薬は…ないの…っ?」 「あるわけないよ………、はいおわり。よかった、思ったより大丈夫みたいだったよ。太めの血管は避けてあったし傷の大きさもそれほどじゃない。ただし、傷が完全に塞がるまでああいう無茶はしないこと。女の子なんだし、ましてや臨也なんて…」 やめなよ?と釘を刺され渋々「はあい」と返事をする。 岸谷くんは薬品やらを片付けに奥の部屋に入っていってしまったから、隣の平和島くんに目を向けた。 平和島くんはすごく……なんて言ったらいいのかわからないが、罪悪感に満ちた顔をしていた。 それから数秒見ていたらなんだか私のほうが申し訳なくなってきたのでフォローしようと試みた。 「平和島くん」 「……んだよ」 「わたしが間に入って行ったのが悪いんだから、そんな顔しないで」 「どんな顔だよ」 「自分の所為だって思い詰めてる顔」 「……っ」 本当のことを告げれば少し息を呑んでいた。 本当のことを当てられて驚いているのかと思えばいきなり立ち上がってわたしを怒鳴り散らした。 「手前自分のことより人の心配してる場合かよ!」 「だいじょうぶだよ?わたし普通の人間じゃないし」 「大丈夫とかそういう問題じゃねぇよ!たとえそうだとしても仮にも女なんだぞ!!ケガとか……ねえだろ」 だんだんと声が小さくなっていくと同時に平和島くんの頭もうな垂れていく。 平和島くんに近寄り顔を覗き込めば少しだけ泣きそうな顔をしていた。 「………わる、かった」 「全然。ありがとう平和島くん。ケガはしないように善処する」 「そっか、分かればいいんだよ。怒鳴って悪かった。えっと……」 「わたし?つばさ、鶴原つばさ」 「つばさか」と微笑んだ平和島くんは、強いってだけじゃなく優しいんだって思った。 多分優しいから暴力が大嫌いで自分が許せない。 (やっぱり情報は間接より直接のほうがわかりやすいね) 「そうだつばさ、俺のこと名字呼びはやめろ。静雄でいい」 「じゃあ静雄くんて呼ぶ」 「おし、あと今更なんだけど………俺が怖くねえのか?標識振り回してたりするしよ……。今日だってサッカーゴール投げちまったし」 見てたろ、あれ。と言われたあの現場はバッチシ見てた。 しかも人間観察という形で絡む気なんか全然なかった。 最初から静雄くんのことは知ってたし、むしろわたしの方が人間らしくないって思える。 「全然怖くないよ?怖かったら止めに入るわけないじゃん」 「そっか。そうだな。さんきゅ」 少し照れくさいのか後頭部をガシガシ掻いてソファーにストンと腰を下ろした。 わたしもゆっくりと座りなおした。 「それと、心配してくれてありがとね」 「いや、いいんだよそれは。なんかかっこわりぃから思い出させんな」 「かっこいいよ」 「ばっ!!な、に言ってんだっ」 「かっこいいって」 「だああああああ!!」 あ、コーヒーカップが粉々の刑に処された。幸い中に入っていたコーヒーは、わたしが手当てされているときにもう全部飲まれていたから大丈夫だった。 強いのと優しいのは違う 「ちょっと落ち着いて静雄くん!」 20110417 |