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納戸に響き渡る声にオレは身をよじる。
「人間じゃない!?それってどういう……」
「AIだよAI!"人工知能"。ピッツバーグのロボット工学研究所で開発中の実験用ハッキングAI、通称"ラブマシーン"。そいつが脱走したって噂だ。奴は例のパスワードで人のアカウントを盗みまくってる。全国で今起きてる混乱も全部ラブマシーンの仕業だ」
佳主馬のパソコンから聞こえる佐久間さんの声。
ああ、OZ経由で会話してるのか。
「オイコラでまかせ言ってんじゃねーぞ!」
「翔兄ぃはだまって!」
『ん……』
「…名前さん起きた?」
『かず、』
オレはさっきの出来事を思い出し佳主馬から離れようとした。が、佳主馬はオレの体に腕を回しているため離れることができなかった。
『かずま、待って恥ずかしい』
「何言っても離さないよ」
オレと佳主馬の攻防戦が続く中、話は続いていた。
「アカウントってそんなに重要なの?私も持ってるけど」
「OZでの身分証明ですからね。OZでなんでもできる今アカウントと現実の人間の権限はほぼ等しいんです。水道局長のアカウントなら水道局のシステムを好きにできますし、JR職員のならJRのダイヤをひっかき回せます。……大統領のアカウントを盗めば核ミサイルだって撃てるかも」
「「「!!!」」」
佐久間の一言にみんなは同時に固まる。
「僕のせいだ、僕の…っ」
「やっぱりタイホだ!!」
『翔太さん、健二くんのこといじめないで。ほら、健二くんもなにネガティブなってんの、馬鹿なの』
「どうにかならないの!?」
シュンとなっていく健二くんを慰めてるのかけなしてるのか自分でもよくわからない言葉をかけて、佳主馬の腕を抜けようとするがビクともしない。
睨んでみるが本人は知らないフリ。
(くっそ、こんな羞恥プレイ御免だ)
「OZのエンジニアたちが総出で事に当たってるけど、まだ管理棟に入れないんだ。ラブマシーンによって書き替えられたセキュリティを破るには、暗号化されたパスワードを解くしかない」
「……また暗号?」
暗号という言葉に自信なさそうに健二くんが反応を見せる。
「512桁。昨夜の2056桁に比べたら楽勝だろ?」
「で…でもほんとにその暗号大丈夫なの!?ラブマシーンの罠で解いたら"ドッカーン"ってことには…!?」
「あらら、トラウマになってる?」
『注意すべきは"絶対に間違えないこと"。大丈夫、健二くんならできるよ』
そう、健二くんならできる。信じてるよ、だからさ
いい加減話してくれないのかなあ、この子。
信頼すべき人
(初めてだ、こんな羞恥プレイ)
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