Ex.体育祭01



 秋といえば読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋。
 個人的に飯が好きだから食欲の秋を推したい所だが、正直今は美味い飯をゆっくり食べている暇もないくらい、忙しい。

「ちょっと冴木(さえき)ちゃん、まだ垂れ幕完成しないの〜?!」
「さとだー!ほっとおーれ!」
「うんうん、ありがとね沢庵ちゃん」
「いっちいちうるさいなぁ、里田(さとだ)は!今発注かけてるっての!てかこれぐらい何で実行委員が動かないの!?」
「さえきー!あいすこーひー、ぶらっく!」
「サンキューたっくん」
「おい、何で俺がパンフレット作りなんかしてるんだ…これこそ実行委員の仕事じゃないのか…」
「ちばー!こーひー!あいじょー、たっぷりー!!」
「あぁ畜生お前は本当に可愛いな沢庵…!」
「いいから早く手を動かしてよこのスライムバ会長!!」

 慌ただしい室内でてんやわんやとわめきたてる3人…プラス、一匹。
 体育祭を1週間前に控えた生徒会室は、現在詰められたスケジュールに追われている毎日を送っていた。

「大体なんでこの時期に運動部の大半が秋の大会勝ち進んでるのさ!」
「本来なら運動部が実行委員を担当して企画する行事なのにね〜」
「おかげで今回の委員の半数が文系の生徒。体育会系バリバリの行事をあいつらが動かせる筈ないだろう…」
「ちば、たくあんも、なにかする?」
「お前はそこにいるだけでいいからなー、な?」
「だからたっくんの頭撫でてる手があるなら早くパンフ仕上げて!午後には入稿しないと間に合わないんだからっ!」
「あ、沢庵ちゃんごめんだけどそこの去年の予算取ってもらってもいーい〜?」
「まかせと、けっ」
「あっ、沢庵…」
「会長はいいから手!あと2時間切ってるよ!!」

 沢庵の登場により転校生が大人しくなり書記の冴木と会計の里田が戻ってきたのは助かるが、やはり人手が足りない。こんなことになるなら新学期の時にでも付け焼刃でいいから新しい副会長と庶務を探しておくべきだったかと思うが後の祭りだ。
 最近全然沢庵とゆっくり出来ない俺はそろそろストレスが溜まって爆発しそうだった。

「早く沢庵とラブラブしたい…!」
「会長がラブラブとかキモッ!」
「最近マジでキャラ変わってきてるよ会長〜」

 …あと沢庵と付き合ってから周囲の反応が割と冷たい。

「ちば、むりしな〜い、でね?」

 不貞腐れながらパソコンに向かってると、手が空いたらしい沢庵が頭を撫でてくれた。現金だがやる気が出たのは仕方ない。
 デスクの上でつぶらな瞳を向けてくる黄色いスライム―――沢庵は、誰になんと言われようと俺の大事な恋人なのだから。





「やっと…今日で終わる」

 ホッと一息をつきながら俺は集会用のテントの下で理事長の開会の挨拶を見つめる。
 バタバタとした一週間だったが、何とか当日までの準備を終わらせ迎えることが出来た体育祭。何の偶然か、この1週間で運動部の大半が大会に敗れ手の空いた者たちが手伝ってくれたおかげで、当日は通常の生徒会業務のみで過ごせそうな様子に内心体育祭が終わったような心持ちでいた。

「気を緩めちゃダメだよ〜!まだ体育祭は始まったばっかりなんだから〜」
「…分かってる」

 あからさまだったのか、里田に注意されて俺は背筋を伸ばした。落ち着いていた場所が変わったのか、頭の上で沢庵がもぞもぞと動いている。

「ちば、たーいくさい、たくあん、なにするの?」
「まぁ…お前は一応俺と同じクラスだから、頭の上にいてればいい」
「はーい!」

 元気よく返事する沢庵は、そのまま配られたハチマキをしっかりと頭に結んでいた。が、上手く出来ないのか冴木にやってもらっていた。可愛いなおい。

「会長は紅組だから白組の俺たちとはライバルだね〜」

 生徒全員が配られたハチマキをしていく中、里田がそういって両の人差し指を俺に向けてくる。俺たち、という言葉に冴木の額をを見ればどうやら二人とも白組らしい。

「らいばる〜?」
「そーだよ、沢庵ちゃん。昨日の友は今日の敵!」
「さえきと、さとだ、やっつければいいの?ちば」
「あー、今のうちに戦力を減らすって手もあるよなそういえば」
「ち、ちなみに今日の敵は明日の友とも言えるからお手柔らかにね、沢庵ちゃん〜」

 沢庵が俺に聞きながら触手の数を増やした所で、里田が冷や汗をかきながら数歩下がって苦笑した。どうやらこいつは沢庵の増える触手が苦手らしい。
 そうこうしている内にそろそろ前半の競技がスタートするか、と準備に向かおうとした時お立ち台から説明をしていた実行委員が最後に一つ、とマイクに乗せて生徒たちの注目を集めた。
 なんだ、俺はこの進行の流れを聞いてないぞ。

「体育祭の総合優勝者は毎年生徒会とのデート券、もしくは食券半年分となっていますが、先日生徒の一人から『生徒会とのデート券の選べる相手に沢庵くんが含まれるのか』という質問が寄せられたので顧問の方に訪ねた所…『生徒会長補佐として登録してるから別に大丈夫だろ』とのことです!良かったですねイニシャルSさん!頑張って沢庵くんとのデート券をもぎ取ってくださーい!!」
「おいこらちょっと待て!!!」

 わめき立つ生徒たちの声にかき消されて俺の怒声は委員に届かなかったようだ。代わりに隣の冴木が不思議そうな表情で見つめてくる。

「何か問題でも?」
「アリだアリだ大アリだ…!なんで沢庵を見ず知らずの他人と一緒にデートさせなきゃいけないんだ!俺はそんなもの許可した覚えはない!!」
「ちば、どーしたのー??」

 俺の様子に頭の上で沢庵が不安そうに覗き込んでくる。二人の様子を見るに、この進行をどうやら知っていたらしい。キッと二人を睨みつけるが、逆に睨み返されて俺は一瞬たじろいだ。

「でもさ〜、沢庵ちゃんって生徒会の一人なんでしょ〜?」
「ていうか生徒会役員じゃないとあの部屋の業務以外の入室は認められてないしね」
「うっ」

 それを言われてしまうと辛い。何か返す言葉がないかと考えていると、二人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて俺を見つめてくる。

「ていうか会長が勝てば問題ないでしょ?」
「そーそー、会長が優勝すれば沢庵ちゃんとデート出来るんだしぃ〜?」
「ぐっ」

 まさか今年の体育祭は半分サボるぐらいの気持ちでいたのがバレていたのだろうか。いや、大体毎年やる気なんか出したことはないが。

「…勝てば問題ないんだろう、勝てば」
「そゆこと〜」
「頑張ってね会長!」

 …もしかしてイニシャルSさんってお前らのことじゃないだろうな。思わず半眼で見つめる。

「ちば、こまったこまった?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。お前が心配することは何もない」

 とうとう頭上でおろおろとし始めた沢庵を宥めるように撫でる。
 どうやら今年の体育祭は本気で頑張らないといけないようだ。俺は強く、ハチマキを締め直した。



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(C)siwasu 2012.03.21


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