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(須藤(攻)目線)
この外見のせいでやたら人に好かれやすいのはだいぶ前から知っていた
一人一人に誠意を持って向き合わなくなったのはきっとそのせいなのだろう 適当に流すし、俺も流されている
今日も俺は友達に囲まれ、どうでもいい話ばかりをしていた 女の子にもやたら来られるけどはっきり言って男友達といるほうが楽しい
「あっ、わり」
いつも通りくだらない話をしていたら、友人Aが誰かに謝った どうやらぶつかったらしい
話を打ち切られたのもあって、そちらの方に視線を移す そこにはいかにも真面目君みたいな子がいた
「いやっ、俺の方こそごめんね」
やたら手をパタパタしながら謝り返す彼 俺がガン見しすぎたせいか、目があったが即座に目をそらされた
気にしないで、と言いながらそそくさと自分の席に戻って行ってしまった彼に一つの疑問が生まれる
「ねえ、あんな子クラスいたっけ?」
なるべく小さな声で呟いたのは彼の対する気遣いか そんな心が自分にもまだあったことに内心驚きつつ友人Bに尋ねる
「須藤ひど!!柊だよ。春からずっと一緒じゃん」
柊
名前を言われてもパッと思い出せるものじゃなくて、ふーんと相槌を打つ
「いつも本読んでるぜ〜」と付け足された情報にも特に興味が湧かずに横目で柊を何気無く見つめた
黒髪に黒縁眼鏡 肌は対照的にやたら白い
次いで周りに友達を見る
染めるのに失敗したであろう中途半端に染まった茶髪のA ワックスで盛られてる頭のB
「なんか、お前ら汚いね」
「はっ!!?なに、その突然のディスり!!」
「そりゃあお前に比べたら俺らは見劣るよ!!」
二人がお怒りモードになったのに笑いながら謝る
別に俺と比べて言ったわけではない。
というか、俺だってワックスつけてる時点で汚い部類だ
でも付けないとダサイから絶対つけるけどね。
授業が始まったから俺は教科書を眺めるふりして、肘をつきながらぼーと机の上を眺める。日本史なんて、つまらない。過去なんて、そんなの知ったこっちゃないと思う。
ふと、さっき存在を知った柊の方を見る
右隣の斜め前のさらにそれの斜めにいる柊は見辛い位置にいるから、少しだけ机を前に出した。
俺とは違って、熱心に黒板を見てる
姿勢もいい。
でも時折窓の外を見てる。そんなに気になるものがあるのか。
そして、時々さやさやと揺れる黒髪が、やっぱり綺麗だと思った。
ドイツ人の祖父を持つ俺は、どうしても純日本人の髪色を持てない。目の色だって、ほかの人より薄い。
気づいたら、柊を目で追うようになっていたけれど、柊が俺を見ることは一度もなかった。俺と柊はタイプが違うし、あたりまえなんだけど、一度くらいは話してみたいなあと思うことはあった。きっとひとつひとつ言葉を選んで会話をしてくれるに違いない。
残念ながらそんな機会無かったけどさ。
なんなのー、俺。今までのコミュ能力どこいっちゃったわけ?
そしてこの変な必死さはどこから湧いてきてるんだか。
自分に呆れつつも、今日も頬杖をつきながら柊を目で追う
襟足から覗く白い首筋も、時折外を眺めている後姿も、やたら綺麗に見えて不思議だと思った。これは俺のフィルターがかかってるのだろうか。
そんなとき、席替えのチャンスが回ってきた
いつもは興味ないのに、なんで俺はこんなにも期待してるんだろう
きっと柊は最後の方にクジを引くんだろうなと思いながら席を立つ
あー、神様、もし今回も俺の味方してくれるなら柊の隣にして。
「え、お前何お祈りポーズしてんの」
きも、と友人Aに言われて俺自身も苦笑する
うるさいな、俺だってどれだけ必死なんだって思ってるよ。
「教卓の前だけは、嫌だなあって?」
適当に嘘をついて、クジを引く
窓1−4の文字
窓際。
柊がいつも見ている窓の隣。
いや、でも柊が隣じゃない可能性の方がデカイんだから…
友人たちが俺のクジを見てなんか色々言ってるが無視して、クジを引き終わった柊のところへ向かった
神妙な顔をしてクジを見てる柊
え、何番だったの。すげえ気になる
気づいたら、柊のクジを奪っていた
柊が驚きながらこちらを見上げているけど、ちょっと待って。番号確認させて。
窓2−4
え、まじ?
隣だ。
「す…須藤、くん?」
柊が困惑してる
あー、そりゃそうだよなぁ、どうしよ。
一回も話したことないのに、突然クジ取られたらそうなるよね。気のせいか、いつもの白い肌が桃色になってる
「隣だね。」
俺のクジ番号を見せながら、笑う
まじ神様ありがと。
柊は、まだ困ったような顔をしながら「…よろしくね」と微笑んできた。
あ、まずい。
俺怖がられてるかもしれない。
柊の目元が引きつっている気がして慌てた
んあー、そうだよなぁ…
考えてみれば俺が柊と話すのは初めてで、名前覚えられてるだけでも奇跡だ
「ねえ、席交換しない?」
気づいたらこんな提案していた
なんでこんなこと聞いたのかわからない
でも、柊はいつも窓の外をみてるから。
窓の外の景色見るの好きなんだろうなって思ったから。
いいの?と聞いてくる柊に内緒ね、と答える。良かった、柊に嫌がられなかった。
柊が喜んでくれたのかわからないけど、席についた柊がまた窓の外を見つめていたからこれでよかったんだと、自己満足に浸る
さてと…
これから何て言って話しかけようかな。
柄にもなく真剣に悩んでる俺に対して、いとも簡単に話しかけてきた隣の奴の言葉を受け流しながら、柊の事を考えた
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