虹に恋した流れ星
微チャラ×地味
俺のクラスの席替えは、担任の気分で行われることが多い。
理由は、その顔ぶれに飽きてしまうから、らしい。
俺みたいな地味な奴は、別にどこの席に座ろうがクラスの雰囲気に影響が出ることはない
ただ、出来るとしたら窓側がいい。前も窓側の席に座っていたが、物思いに耽るときは外の景色を見ながらが一番だ。
春は、桜の散り際を眺めることができてこれからの季節では炎天下の中校庭で青春を満喫する学生たちを見れる。
以前の席では、綺麗なピンク色のグラウンドを見ることが出来たから、今度は青色の世界を眺めていたいなあ、とくじ引きを引く番になるまで、外を眺めながら本気でそう思っていた。
けれど、残念なことに、引いてしまったくじは窓際一列目ではなく窓際から二列目の席。
窓を見ようにも、左側の人をガン見するような形になるだろうから、あきらめなければいけない。
…残念だなあ…。
小さい正方形の紙にかかれた『窓2-4』という文字を何気なしに見つめる
そうしていると、その紙切れを細い指にヒョイッと持ってかれた
「っ?」
驚いて、その指の持ち主を見上げる
そこには、興味深げに紙切れを眺める男子生徒がいた。
「す…須藤、くん?」
その相手にも俺は驚いた。
俺が一度も話したことがない上に、きっとこれからしゃべる事がないと思っていた相手だったから。
「…隣だね。」
琥珀色の綺麗な瞳を柔らかく細めながら、俺に笑いかけてきた彼
見せられた紙には『窓1−4』と書かれている
俺の隣は、須藤君なのか、と少し不安な気持ちになりながら「…よろしくね」と一応小さく微笑み返した
不安な原因は、『タイプがまるで違う人物』というのが大きく関わっている
俺を地味というならば、彼は華やかな人。
髪色も、目の色も真っ黒な僕とは違って、彼は何もかも柔らかい。栗色の髪も太陽の光に当てられるときらきら弾けるほどだ。
それに、俺なんかが須藤君の隣なんて勿体ないにも程がある。
きっと、クラスの女の子はみんな須藤君の近くが良いに決まってる。しかも隣なんて特に。それなのに俺が引いてしまった。
申し訳ない…こんな当たりくじ…。
俺なんかが…。
しかも、窓際ではなくなってしまった。この際どこでもいい。
他の子とこっそり交換してあげようかな、と周りを見渡すが、すでにみんな机の引っ越しで忙しいようだ。
…仕方ない、俺も引っ越しをしなければ。
「ねえ、席交換しない?」
「えっ?」
予想外の言葉をかけられて、素っ頓狂な声が出た
ポカンとしてる俺にそっと返された正方形の紙は『窓1−4』になっていて。
「え、…い、いいの?」
「内緒ね。」
子供っぽく人差し指を口にあてて笑う彼に、ドキと胸がなった。すごい、同性の俺ですらこんな心を乱されるんだ、女子にはたまらないよな。
机を取りに戻った須藤君の後姿を軽く目で追いながら、自分も机を移動しようと持ち上げた。…とはいっても、そんなに場所は変わらないけど。後ろだったのが二個前になっただけ。
みんなより先に終わった俺は座って、また窓を眺める。
議題は、なぜ須藤君が俺と席を交換してくれたのか、だ。
握りしめていた、正方形の紙を見つめる
クシャクシャになってしまったので、そっと皺を伸ばしていると須藤君が反対側の席の人と談笑をし始めたところだった。
その様子をみて、納得した。
ああ、そうか。
窓と俺に挟まれたら、話し相手がいなくなっちゃうもんな。
結論が出て、すっかり満足した俺は本を開く。
隣は、今まで教室はこんな賑やかだったの?と聞きたくなるくらい、楽しそう。
しばらくすると、先生がSHRを始めたので須藤君は眠りにつく態勢
俺は相変わらず本を読んでいたけど、その姿を横目に、やっぱり須藤君はマイペースなんだな、と思った。
気づいたら教室のみんなが帰り支度を始めたから、SHRが終わったらしい。
須藤君の席にはあっという間に人が集まる。
「須藤、かえろーぜ」
「んー」
「あ、そういや昼休み一年の女子がお前呼んでたぞ。放課後また来るって」
「はっ!?呼び出しかよ!おまえ今週何回目だ!」
「うるせえー」
笑いながらみんなの話をあしらっている須藤君。また呼び出しをされていたらしい。
須藤君が隣にきた途端、驚くほど須藤君の情報が溢れてくる。
「はやく、彼女つくってくれ」と頼まれているあたり、彼女はいないみたい。
それには驚いた。俺がみる須藤君は、男友達に囲まれてるか、女子と一緒にいるからかだからだ。
俺はその話にへえー、と思いながら帰る支度をする
教科書を全部鞄にしまい、薄っぺらい小説を手に席を立った時だった
「柊、帰るの?」
まさか、再び話しかけられるとは。
驚きすぎて、鞄を落としそうになった
びっくりしたのは、俺だけではなかったらしく、周りの友達も驚いている
「…っ、あ、」
その友達たちの視線に一気に浴びることになった俺は、顔を上げては俯いてを2、3回繰り返したあと無言で、頭を必死に縦に振った
そんな俺の挙動不審にも、ふっ、と頬を緩ませて笑ってくれた須藤君
「そか。また明日ねえ」
パタパタ手を振ってくれた彼の事を今度こそ見ることが出来なくて、「バイバイッ」とだけ言って、早歩きで教室を出た。
廊下に聞こえてくるみんなの会話。「お前、柊と仲良かったの?」とか「意外だわ」とか。
そうだよ、俺だってびっくりしてるんだ。
まさか、須藤君に別れの挨拶をされるなんて、俺だって思ってもなかったよ。
しかもあんな愛想の悪い対応をしたのに、須藤君は笑ってくれた。
・・・俺が地味だから、興味があるのかな。
そりゃあ、須藤君からしたら真逆のタイプの俺は面白いかもしれない
けど、俺にとっては、心臓が暴れだすから大変なんだ。
もともと人と会話するのが苦手だから、本が好きになった。窓の外の景色に憧れを抱いていた。
明日も、須藤君と、挨拶を交わすんだろうか。
そう考えただけで頭が爆発しそうになった、なんでって、普通の人との会話ですら緊張するのに、あの笑顔と顔を合わせるなんて手から汗水が止まらなくなるんじゃないか?
次の日の朝、いつも通り学校に行って俺の席につく まだ誰も来てない教室は俺にとってはとても幸せな空間 ベランダから校庭を見下ろすのが大好きだ
外は太陽の光で何もかも光っていて眩しい
いい天気だ
眠気も吹き飛びそう
欠伸をしておもいっきり腕を伸ばす
誰もいないのをいいことに「んーーーあーー」と間抜けな声を出した
が。
「おはよー」
「ひえっ!!?」
予想もしていなかった人の存在に全力で驚いた
こんな朝早い時間に誰!!とビビりながら振り向くとまさかの相手
「えっ、えっ、す、須藤君…!!?」
確かに、この超イケメンは須藤君だ
どうみたって 偽物じゃない
なんでこんな時間に、と驚くことしかできない だっていつも遅刻ギリギリできて、朝はずっと寝てるのに
「やだなあ、俺が朝早いのそんなに意外?」
「ごめん…びっくりしちゃって…」
困ったように笑う須藤君に慌てて謝る 意外だけど…!!
改めて須藤君を確認する
ネクタイをゆるーくつけてるのも、指定以外のカーディガンをきてるのもいつも通り。 これが色気か 爽やかな朝には受け入れがたい
でもいつもと違うのは、ワックスをつけてないことだ
今日はなんだかぺったーんとしてサラサラ … 正統派イケメンになってる
しかも、太陽の光に当てられている琥珀色の目が宝石のように透き通っていて綺麗 俺はどうしてもそんな色は得られない
「なにー?そんな見られると照れるんだけど」
「ご、ごめんね…えっと…須藤君が、あまりにも綺麗だから…」
本心を言ったつもりが、目を見開かれてしまった
え、俺何か間違った?
あっ、男なのに綺麗とか嫌か…!てか気持ち悪いよね!!
「それだったら柊の方が的を射てるでしょー」
「お、俺が?ないない」
綺麗って表現が?
信じらんないな
いや、てか俺はなんで間に受けてるんだ こんなのお世辞に決まってるだろ
「というか、須藤君、今日朝早いよね…?」
「…あー、柊が朝早いの知ってるからね」
「・・・えっ」
ん?どういうことだ…
やばい会話慣れしてないから全然本心がわからない
今の話からじゃ俺が朝早いから、朝早く来たって言ってるようなもん…
カカカ、と頬が火照る感覚がしたから慌ててそっぽ向いた
須藤君は俺と仲良くしてくれようとしてるんだろうか 隣同士だから、そりゃあ多少仲がいいほうがいいけど
「あれ?照れてる…?」
「き、気にしなくていいから…俺、すぐ赤くなるしテンパりやすいんだ…」
「へえ…」
え、なんでそんなマジマジみてくるかな…やめてよ俺須藤君みたいに綺麗なわけでもかっこいいわけでもない 眼鏡だし…
どうすればいいかわからなくてアタフタしてたらクラスメートが登校してきたみたいで「えっ須藤君!!?」という声が聞こえてきた
須藤君もその声に振り返って手を上げて「おはよー」と挨拶してる
あ…そろそろみんな来る頃か…と思いながらベランダから教室に戻った
俺ごときが須藤君と会話をしてしまった、そんな後ろめたさがあるのか須藤君を見ることができない
須藤君が俺をみてるのは何となく気づいていたが、今ちょうど来た女の子が須藤君に近づいて行ったからお互い声を掛けることもなくなった
あとの時間はいつも通り小説を読むだけ チャイムがなるまで
けどまさか須藤君と会話することになるとは…俺は一生分の運を使ってしまったかもしれない
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