俺の学校は、大きく二種類の人間に分かれる。

一つは、俺みたいな普通の家から知識を用いて入学した人間
もう一つは、家名を用いて入学した貴族。

貴族の方たちは、例え同い年だとしても俺らの事を『貧乏人』と呼んでくる。平民だから貧者ではないけれど、彼らは俺らと同じ土俵にいるのが気に食わないらしい。

そのおかげで、俺らは全く持って仲良くない。
食堂もきっちり分かれているし、貴族には馬鹿にされるし俺らも貴族を馬鹿にしてる。

・・・いや、語弊があったかもしれない。
俺は別に相手が貴族だろうがなんだろうが馬鹿にしようとは思わない。

けれど、相手が嫌ってるなら別にこちらから近づこうとも思わない。

俺は事なかれ主義なのだ。
喧嘩になろうものなら、こちらから喜んで引き下がるだろう。

だって、そっちの方が、楽に生きていける。




「…すごい、またラングドルが一位だ。」

「あいつ勉強に興味なさそうな顔しているのにな」

「実技も筆記も一位なんて、あいつは化け物かよ」



試験の上位者の結果が張り出されているボードの前に人がたくさん群がっていた。
わざわざ、人の目につきやすい食堂前に貼る先生達はどうかしている。はっきり言って迷惑だ。


「ラングドル、また一位だったんだってな」

「そう、偶然ね」

「偶然なわけないだろ」


俺の存在に気づいた人たちが俺を囲み始めた。
確かに、試験前に努力はかなりした。
けれど実技は、運が良く俺の得意分野のお題が出されただけだ。


話しかけてくる同学年の人たちの言葉を笑顔で交わしつつ食堂に逃げる。
いや、食堂に行くと余計話しかけてくるかもしれないが、ごはんを食べないと3限目に集中できなくなるから。


ふう、とため息をついて持ってきた食事をテーブルの上に置く。
すると隣に誰かが食事を置いた。
他にも席は空いているというのに。


誰だ、と思って横をチラリと見上げると黒髪の美形男。
横顔からでも漂う気品さと、その美貌には一瞬釘づけになったが俺は内心舌うちをする。

・・・なるほど、面倒な人に捕まってしまった。


「・・・こんにちは。」


厄介だと思いながらも、挨拶をする。
何故なら彼は先輩で、他人という訳ではないからだ。

手にしてる食事も、豪華なものばかり。

しかし微かに漂う煙草の匂いから彼があまり気品ある方ではないということを察せられる。



「・・・そんな不味そうなのよく食べれるな」

「美味しいですよ」


一言目で、罵倒された。
・・・本当、どうして俺にそんな態度を取るくせにちょっかいを出してくるのか謎だ。

しかも、彼は貴族側。
俺で日頃の鬱憤を晴らしているとしか思えない。
何故その対象に選ばれてしまったのか、わからないけれど。


耳をすませなくても聞こえる『また、あの男』『貧民のくせに』『図々しくない?』と言っている俺に対する陰口


「いいんですか、俺と一緒にいると何言われるかわかりませんよ。」


まあ言われるのは俺だけなんだけど。

そう言ったあとにスープを口に入れる。
うん、やっぱり美味しい。
この人が隣に居なければもっと美味しかったのかもしれない


「俺に盾突く奴なんて滅多にいねえよ。」


彼が小さく笑った。
彼はこの後俺があのファンの人たちに囲まれて罵声を浴びせられるのわかっているんだろうか。わかっててわざと俺に嫌がらせをしてくるなら彼を性悪糞男と呼ぶことにしよう。


「そういや、一位だったんだってな。試験」


彼に呆れながらご飯をもくもくと食べていたら、話を変えられた。
なるべく会話したくないのだけれど、仕方ない。


「はい。筆記は問題ないんですが、実技は運が良かった。俺の得意な水属性の魔法が課題でしたから」


水属性を中心に、他の属性と組み合わせてどれだけの威力がある魔法を生み出せるかの試験だった。ほぼ戦争のための人材を教育する学校だから、強ければ強いほど、実技は点が重なる。

この隣にいる美形男もそうだ。
学校の中で、3本の指に入るだろう。だから知らない人はいない。
「王の守り人」という称号を持っている人たちの一人だ。

俺は学校で両手に入るか入らないかのところ。
彼からしたら俺はひよこのようなもの。


「お前の魔法なんて、たかが知れてるんだろうな」


鼻で笑われた。
そりゃそうだ。貴方にかなうわけもないだろう、と心の中で呟く。俺はただの秀才。貴方は天才。


そろそろ他人からの視線も痛くなってきたので、極力食事の手を早める。
今回は、彼のファンたちに何をされることか。
例としては、平手打ちを突然された事もある。あれは突然すぎて訳が分からなかった。笑ってしまったほどだ。



「それではお先に失礼します。」


彼の食事はまだ半分残っている。
これで彼から離れられるだろうと思いながら、席を立つと腕を捕まれた。


・・・何故。


無言のまま視線を送ると、俺の腕を掴んだまま一気に水を喉に流し込んだ彼。
そして、皆が引き込まれると噂してる魅力的な瞳をこちらに向けながら彼は俺に告げた


「来い」


そう言って、まだ半分も残ってるお高い食事を置いたまま俺の腕を引っ張って歩き始めた彼。

ザワザワ、と周りがうるさくなるのは、当たり前だ。
何故こんな目立つようなことをするんだ。


「先輩、ついていきますので、手を離してください。」


彼の承諾を得る前に、そう言って自分から腕をひねって手から逃げる。
俺の行動に彼は一度足を止めて、不満げにこちらを見たがまた歩みを進めた。

ああ、嫌な予感しかしない。


この人に最初絡まれたのは、何か月前の事か。
時々俺の前に現れては、今みたいな突拍子もないことを言って俺を連れ回す


この人は、俺が嫌がっているのを知ってこういう事をするのだろうか。

それとも、嫌悪のそぶりを見せないから、彼は俺に好かれてるとでも思っているのだろうか。有り得る。今まで彼は色々な人々を適当に弄んできた。

玩具としか、俺を見ていないのは、とてつもなく気に食わない。
次は、彼に見つからないようにうまく行動しなくては。



彼の背中を見ながらついていくと、校舎のはずれにある森に連れてこられた。
あまり人が来ないのは知ってる。何故なら俺が時々ここで読書をするからだ。


・・・はあ。今日はここでするわけか。


初めてではない誘いに、うんざりしながらジャケットを脱ぐ。
残念なことに、まだ昼休みは終わらない。
早く食事を済ませたせいでよけいにだ。


「・・・。」


近くにあったベンチにジャケットとネクタイを淡々とかける俺を見つめる彼。
何故そんな気に食わなそうな顔をしているのかわからない。
さっさと準備をした方が、彼にとってもありがたい話ではないのか。


「前にも言いましたけど、俺みたいな平民を抱いたところで先輩のお目汚しにしかならないと思いますが。」


そもそもこの人は俺の事を嫌いなのによく俺を抱けるな。
性欲を満たしたいなら、ほかにも良い男子はいるだろうに。
特に貴族の人たちは良い匂いがする。ガリガリな俺と違って彼らの方がきっと抱き心地もいい。
それに、この人になら喜んで抱かれにくるだろう。


木の陰に隠れ、自らのシャツのボタンを一つ一つ外していく。筋肉も何も付いていない俺の体。外にでないおかげでやたら白い。
それがへそのところまで達したであろうか、そんな時、荒々しく木に体を押し付けられた。


「ん・・・、」


乱暴なキスを、仕方なく受け止める。
鼻を掠める香水の匂いと煙草の匂いが彼の存在を主張した。

少し苛立ちを感じるキスは、初めてではない。というか、毎回こんな感じで荒々しい。


「はッ…、ん、ぅ…」


舌を絡ませながら、俺の胸へと手を滑らせる彼。
彼はかなりの手練れであるのだろう、キスが物凄くうまい。たとえ優しくなくても、気持ちよさにうっとりするくらいはキスが上手いのだ。


「偶には可愛げのあることが言えねえの?」


俺の頬をなぞりながらつぶやく先輩。
顔だけなら、一級品だと思う。この吸い込まれそうな深海色の瞳も。

けれど、可愛げのあることとはいったい・・・。
残念ながら、こちらから彼を喜ばせるようなサービス精神は持ち合わせてはいない。


無言で先輩を見上げる俺に飽きたのか、先輩が行為を再開した。
俺の髪を避けながら唇を首筋につけて、舌を這わせてくる。その感触にゾクゾクと肌が震えた


俺が、首弱いの知ってるからわざとやるんだろうな…。


「ぁ…ん、ッ…ぅ」


同時にシャツの隙間から先輩の手が入り込んできて、俺の胸を弄ってきた。親指の腹で転がされ、あっという間に二つともシャツの上からでもわかるくらい存在を主張し始める。


切ないような甘いような刺激に俺の意識にもやがかかってくる。気づいたら熱い吐息を溢しながら先輩のシャツに縋っていた。やっぱり、この匂いは嫌いじゃない。


「…ッ、先輩・・・」


ジャケットが邪魔で、彼に何も聞かずに脱がせると、彼は笑いながら俺にキスをしてきた。こんな笑顔を見せる先輩は、珍しい。


「ンっ…、」


先ほどよりも優しさのあるキス。
その間に、俺のベルトが外される。
完全に興奮が高まる俺。

自分のものだから、もうソレが起ってるのがわかっていた。

そのことに気づいた先輩が下着の上からそれを指でゆっくりとなぞってきて、また声が漏れる。


「ぁ、あッ…」


その触り方にビクビクと体が震えた。
「別人だな」、と呟かれた言葉に否定のしようもない。
ただ再び降ってきたキスを、荒くなる呼吸の中でどうにか受け止めた。






しばらくして、後ろの穴が解されて、3本指を入れられたところで指を抜かれた。

こんな高貴な人が、よく汚い穴に指を入れられるなと初めては感心したものだが今ではこの綺麗な指が俺のとこに入ってると思うとさすがの俺も羞恥で頭がいっぱいになる。

そんな俺に「お前でも顔が真っ赤になることがあるんだな」と先輩が呟いた。そりゃあ人間だから。


潤滑剤を塗られた上かなり解されたので、挿入はスムーズにいった。
立ちバックだから、態勢がキツいけれど、ズルリと中に挿れられた感覚に息が詰まった。


「っ、・・・痛いか?」


こういう時、彼は意外にも俺の身体の安否を尋ねてくる。
その意外性にも驚いたが、はっきり言って俺はそれどころではない


「・・・ッ、ひ、ひぃえ・・・っ」


指で焦らされまくった後の待ちに待った挿入は、悦びのあまり体のすべてに甘い痺れが走った。

言葉もまともに発せられない中、木に腕を置き、顔をそこに埋める。木に体重をかけて何とか身体を支えてる俺


俺の『いいえ』を聞き取った彼は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
出し抜きされるたびにカクカクと震える足

女のような嬌声がたびたび自身の耳を疑わせた。



「あっ、ぁう、ッは…ぁ」



はっきり言って、気を抜けばすべてが溶けてしまいそうなくらい気持ちが良い。脳も意識も骨も言葉も。


俺の弱いところを突いてくる彼。
突かれるたびに、俺の口から「もっと」と淫猥な言葉が漏れ、口から涎が滴り落ちるのだった。


「欲しかったら自分で腰振れ」


先輩が、俺の耳元で熱く囁く
快楽で一杯の俺は先輩の言葉を言われたまま実行するただの娼婦。ぎこちなく腰を揺らすと、タイミング良く出し入れされた先輩のモノがゴツゴツと奥に当たった


「っ、いや、こ、壊れひゃうぅっ」


言いつつも腰が止まらない俺
先輩もそんな俺の痴態に笑ったが、たぶん満足気な顔を浮かべてることだろう。


「・・・淫乱」

「ぁうッ、ンっ、先輩、先輩ッ」


甘い声で囁かれ、うなじに熱いキスを落とされた
同時にご褒美と言わんばかりに俺のアレも擦られる。長い指が、俺の先走りで汚れるのも気にしないで小刻みに扱いてくれる先輩

お互い、獣のように快楽を求め合って、学年一の秀才が聞いて呆れるな。


「腰、あげろ」


止まらない甘い刺激に身体が支えられなくなる俺に、先輩が無茶を言ってきた。

さっきとは打って変わって息が荒い。先輩も、そろそろ限界なんだろうか。

首を振って無理だという俺に、先輩は無理矢理俺の腰を持ち上げてガツガツと奥を突いてくる


「〜〜ッあぁッッ!」


その強い刺激に身体が仰け反った

快感の波が押し寄せてきてチカチカと点滅し始める視界
これ以上の快感を耐えきれないと思うのに先輩がさらに俺を追い立ててきた。俺は甘い声で鳴き叫ぶ


「もう、ッイっちゃう・・・!ぁあっっ、だめっ、せんぱいぃッ…!」


「っ、く・・・!」



何回か奥を突かれたところで我慢できなくて達してしまった。後ろだけで。
先輩もイったんだろう、熱い液体が中にドクドクと注がれているのがわかる


一呼吸置いた後に、ズルと抜かれる先輩のモノ
それが抜かれた瞬間、トロリとした熱いものが俺の太ももに垂れた


さっきまであんなに頭の中が一杯一杯だったのに、一気に冴えわたる頭
そして、まず、「あーあ」と自分に呆れた。

自分が快楽に弱いというのを知ったのはだいぶ前だ。
だから一度スタートすると、最後まで醜く快楽を求めてしまう。

そして終わるとまたいつもの自分に戻るのだが、弾んだ呼吸と首筋に流れる汗とその他もろもろの体液にうんざりするのだ。



「・・・先輩、ティッシュどうぞ。」



自分の分を10枚くらい取った後、先輩にティッシュを渡す。
中に出されてしまったものは、外に出さなきゃいけないのである程度身なりを整えたらトイレに行こうと思う。

とりあえず、太ももに垂れている先輩の精液をふき取り、次に自分のモノをあらかたふき取る。先輩はいれる側だから、片付けが楽そうで羨ましい。


俺がある程度自分の身を綺麗に出来たところで先輩は片付けが終わったのか、近くのベンチに腰掛けた。帰ればいいのに。


側に投げ出されている自らの下着とスラックスとベルトを拾い、履く。
一応精液がこぼれないようにティッシュを中に敷いてるが、ふとした瞬間に漏れてしまいそうで怖い。早くトイレに行きたいものだ。


「おい。」


シャツのボタンを閉めているところで、先輩に声を掛けられた。
非常にぶっきらぼうな呼び方だ。

俺を抱いて少しはすっきりしてもいいはずなのに、なんでそんなに不機嫌なんだろう。



「なんですか。」

「お前、ほかに男いるだろ。」


先輩が放った言葉に内心驚いた。

・・・他に、って。
先輩はいつから俺の男になっていたんだ。

そもそも『男』って言うのは、どういう関係の人物を指しているのか見当もつかない。



「男、ってのは・・・?」


よくわからない疑いをかけられ、先輩に質問で返す。
そんな俺に「白々しい」と舌うちをする先輩。

いや、白々しいも何もないんだけど…。



「お前を最後に抱いたの2週間前の筈なのに、あまりにもスムーズすぎたんだよ。」


煙草に火をつけ、イライラしながら俺に言う先輩。

ああ…セックスの話か。
最後に抱かれたのは2週間前だったのか。よく覚えてるな先輩。



「ああ、それに関してなら、確かに5日前に知らない生徒達に犯されましたね。」

「・・・は?」


さらりと答えた俺に目を丸くする先輩。驚きすぎたのか煙草を落としてしまっている。もったいない。


「………今、なんつった」


端整な顔が、歪んだ。
なんでそんな表情をするのかわからない。


「俺は貴族側の人から恨まれやすいみたいですね。頭がいいし、先輩によく絡まれるから。」


先日の、よくわからない人たちの事を思い浮かべる。
抵抗したら痛い目に合わされるのがよく見えていたから、大人しく彼らに犯された。
気色悪かったけど、痛い思いをせずに済んだからよかったと思っている。


「誰」

「え?」

「誰にやられた」


さっきまでベンチに座っていた先輩が目の前にいて驚いた。
いつもの俺に対しての怒りじゃない。たぶん、彼らに怒りを表している狼のような瞳。

誰だかを俺が知るはずがない。
目隠しされたし。

「誰にやられたかはわかりませんね。でも別にいいんです。しゃぶるのも、挿れられるのも俺は慣れてる。」


いつもの笑顔で答えると、先輩は絶句したようだ。
・・・別に、あなたがしていることも同じような事なのに何をそんなショックを受けているんだろう。


「しょっちゅう、そんな目に遭ってるのか、お前」

「んー・・・そうですね。しょっちゅうではないです。偶にです。」


お陰でこんな淫乱な体になってしまったのかもしれない。
そんなこと思っていたら、鐘の音が鳴った。

その音にハッと我に返る


まずい、授業始まる前にトイレ行かなければなのに。


「それじゃあ、失礼します。」


もう二度と会いたくないレベルだから次は彼にいつ会えるのかわからないけど。
相変わらず先輩はどこかぼんやりした顔で、俺を見ていた。

困ったな、授業に間に合わない…。
遅刻覚悟でトイレいくしかないな


誰にも会いませんように、と心の中で願いながら先輩の元を去った。



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