ーーー・・・




「混んでる」

「混んでるね。」

「大地、行け。」

「いやだからさ!!!その扱いは今年も同じなのね!!」



大地のその全力なツッコミは今年もキレッキレだね。
千春は相変わらず俺の背中に張り付いてるから動きづらいのなんの。階段危ないからね。



「お前らの女子の視線独り占めも相変わらずだな…。」



大地のうんざりした声に俺らも「うーん。」という。
確かに、視線がきてるのは嫌でもわかる。
全然嬉しくないんだよなぁ、これが。


「あそこの中にいくと、やたら体ベタベタ触られるんだよね・・・。」


混んでるから偶然かもしれないけど、なんというか、・・・うん。

千春は?と見ると、すごい険しい顔つき

おおっ・・・。



「今度から俺行くわ。」

「出た。ブラコン。」


本当千春って俺の事大好きだよな。
でも千春も大変だろうに。


「基本俺は近づいてくる奴にぶつかる勢いで行くから。」

「そ、それは、どうなんだろ。」

「お前絶対嫌われるよそれ。」


だよね。
うわー、千春の将来心配になってきた。


「エビカツでしょ?」

「あ、うん、でも、俺自分で行くよ?」

「いいから。」


ニヤ、と笑ってから俺たちの元を去った千春
な、なにをする気だ千春…!
体当たりでもしてくるのか…!


大地と一緒にドキドキとしながら千春を見守る
うわー、こうしてみると本当千春女の子にピンクビーム貰ってるなぁ…


そう思ってると、千春が女の子の軍団に話しかけてる


「「えっ!?」」


大地と一緒にびっくりする俺ら
いやいや、え?千春が、女の子に話しかけてるのなんて珍しすぎて草なんだけど。


何を一体話してるんだ、と思ったらその女の子たちの前をスイスイ通り抜けていく千春

あっ、あいつ・・・


「ズルい手使ってますね。」

「完璧に顔を利用してますね。」


たぶん、「ちょっと前通ってもいい?ごめんね」とでも言ったんだろう。蕩けるくらい甘い笑顔で。
ずるいずるい。普段仏頂面のギャップ使って!ずるいぞ!


しばらくすると、エビカツパンを手にドヤ顔の千春が帰ってきた。
うわあ。


「ちょろい。」

「性格わっる。」


大地が正しいですね。


「俺はいいんだよこれで。はい、春介。」

「あ、ありがと。」


エビカツパン二個も貰っちゃった。


「俺も今度から千春と同じことしよー。」

「いやいや、やめとけって。」


なんとなく呟いた俺の言葉に大地が焦ったように首を振る
?なんで。


「女子が爆発しそう。」

「どういうこと」


大地の言葉が意味わからな過ぎて思わず笑う
やめてよ俺の笑い声変なんだから


「千春はなんか嘘くさい笑顔だけど、お前はきっと素じゃん?」

「は?嘘くさいってなんだオラ」

「ひっ」


千春が大地を壁ドンして、大地が情けない声をあげる
大地は俺らより少し背は高いんだけど、なんか、千春の方が存在感があるからかな…。完全に負けてるよ、大地。


「近いよ近いよ二人とも。」


いろんな人こっち見てるじゃん。
慌てて二人の間に入って、距離を取ってあげる
大地怯えすぎでしょ


「大地買いに行かないの?」

「い、行く…。」


千春買ってきてあげればよかったのに。

とぼとぼと歩く大地の背中に手を振りながら大地を見守るが、やっぱりあの大混雑に飲み込まれてって可哀そうなことになってた。



一応始業式だったから授業も少し早目に終わり俺らは帰宅
外はもう少しで夕方かな?って感じの明るさ。少しだけ寒いけどちょうどいい感じでゆっくりと千春と家に帰った。


結局三年になる前と変わらない一日を過ごしたなあ、としぶしぶ思う。
これから忙しくなってくんだろうけど。


家に帰って早々、制服から着替えたら二人でベッドにダイブした
ここ俺の部屋なのにね。狭いベッドに二人。

そんで千春は抱き付いて寝るというより、ぴったりとくっついて寝ることが多い
もちろん抱き付いてくるときもあるけど。
それか上に乗っかって寝るか

今は後者。クソ重い。


「重いよー。」

「んー。」


聞いてないよこれ。
ズリズリと俺の肩におでこをこすりつけてる千春


「千春。毛布かけて。」

「俺が毛布になってやってんの。」

「こんな重い毛布やだよー。」


よっこいしょと千春を横にころがして毛布をお互いにかける
隣でクスクス笑ってる千春。何が楽しいんだか。


「もうちょっとでまた歳とっちゃうな。」

「そうだね。」


見た目は変わって見えないのに、その瞬間に歳を取る
そしてそれが重なってって、俺たちは大人になっていく

いつかは俺たちも違う道歩き始めるのかな、なんて思っちゃうけどそんな辛気臭いこと考えたくない。俺らしくないし。

ジッと千春が俺を見つめて来てたから、俺も見つめ返す



「…なあ春介。」

「ん?」

「・・・。」


黙っちゃったよ。
…もしかしたら千春も同じこと考えてるのかもなあ。千春は俺よりも口数が少ないからその分俺よりも考えてることが多い。俺みたいに口に出せばいいのに。

そんなことを思ってしばらくしたら千春がポロリとあることを呟いた


「春介は絶対、俺の名前の方が似合ってるよな。」

「どした急に。」


意味わからんぞ。名前って。
大地がいたらこれでもかってほどつっこんでたはず。

驚く俺に小さく笑うだけの千春
目を軽く伏せていて、なんだか儚げ。俺には絶対できない雰囲気。


「ちはる、って響きがさ、」

「うん。」

「柔らかくて、お前そのものだよ。」

「・・・そうかな。」


そんなこと思ったことない。
千春はいままで俺にとっての千春そのものだし


「俺は春介の方があってるよ」

「・・・どうして?」


うーん。
どうしてって言われてもな。
これは俺の完全な雑学になるけど・・・。


「春介の介にはね、両側から中のものをたすけ守るって意味があるんだって。」


前に調べたんだとドヤ顔を浮かべる
いつ調べたのかすら覚えてないけど。きっと子供の時。


「千春が"千の春"なら、弟の俺は"春を守る"役目があるからね…なんつって。」


なんとなくクサいこと言ってるのが恥ずかしくて笑ってごまかす。
グヘヘって。俺は本当きまらない奴だな。


そういった俺の肩に、また顔を押し付けてきた千春
感動しちゃったかな?と思って顔を覗いてみると、


「生意気」


って爆笑された。

えっなんか俺の予想と違う…!がっかりだ…!


「やっぱ名前逆なんじゃねえの。」

「え、そ、そんなことないよ!俺が守る側!」

「ばーか。つか俺らに兄も弟もねえだろ。」


必死になる俺にやっぱり笑う千春
現実は本当逆なんだよなこれ…俺も頑張らなきゃ…



「春介は、俺の隣にいてくれるだけでいいから。」


まるでプロポーズのような言葉にむず痒くなる。

いやさっき俺も負けないくらい恥ずかしいこと言ったからなんも言えないな…




「・・・はい。」




なんだかとても負けた気がして、大人しく返事だけをした。



・・・どうしても千春には勝てないんだよなあ。



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