未完結世界
双子愛




つい最近、高校三年生になった。
春の訪れというのは、慈愛に満ちているけど時に残酷でもある

今年の俺たちにとっては受験という大きな壁があるから、後者なんだけど、


それでも俺は春が好き。




「なあなあ、大地」

「・・・なんだよ」



クラス替えがない三年は席も名前順でとっても安定している
一個前の席にいるのはさっぱりとした黒髪の、いかにも好青年って感じの男子

下手したらこいつしか友達がいないかもしれないっていう悲しい俺の交友関係



「あれ、なんか冷たいなあ。久しぶりの学校なのに。」

「昨日も俺んち遊び来ただろーが!おかげで寝不足だっつの。」

「あははー、そうだったそうだった。」



まあ、最後のお休みを楽しみましたが。

健康第一の大地にとっては昨日の夜更かしは応えたのかな。高校生の癖に11時就寝ってのにも内心ウケてたけど。


「つか、何だよ。本題」

あ、そうそう。
大事な話があるんだ。


「えーと、問題です。明日は何の日だー?」


グフフという変な笑いを袖で隠しながら大地に尋ねる
けれど、俺の質問に「きたよこれ」とでも言うようにうんざりした顔になる大地

うわー、なんだその顔は!


「あのな、俺は金がないの。」

「えー?俺は何の日か聞いただけなんだけど」

「お前らの誕生日だろ」


とげとげしく呟いた大地に自然と笑みがこぼれる
だって、そんな嫌そうな顔されるとねえ?

複数形なのは、同じ誕生日のヤツがもう一人いるから。


「せーかい!」


偉いぞ!

わしわしと少し固い黒髪を撫でてやると「なんでクラス替えねーんだよ」ってブツブツいってる



「俺は大地とクラスおんなじで嬉しいぜ?」

「あー、はいはい。」



はは、照れてる照れてる。
肘をつきながら大地の様子を楽しんでると、後ろのドアが雑に開いた


その音に反射的に振り返ると、制服をだらしなく着て馬鹿デカいヘッドフォンをつけている男子生徒が。
んー、進学校なのにその恰好はどうかと思うわ


女子がその男子に対して目からピンク色のビームを出しながらコソコソと楽しそうにお話をしている。そいつらを華麗にスルーして俺の後ろの席に来る男

片手を軽く上げて、顔も僅かにニヤけながら鞄をドサッと机の上に置いた
今日も朝から色っぽい。



「よう春介」

「おはよ千春。」


「・・・えっ、俺には?」



俺にしかもらえなかった挨拶に大地が案の定リアクションをかます。
さすが大地。

あ、てか千春またピアスつけて来てるし。

「千春ー、先生に見つかったら怒られるよ。」

「まじ?ばれる?」

「髪で隠せ髪で。」

「・・・仲のいいことで。」


だって仲いいもん。

大地をとりあえず無視して、いそいそと千春の黒髪を引っ張ってピアスを隠す
んー、どうだろ。いっちょまえにパーマなんてかけてるから伸びてくれない


千春が目でどうなのかを訴えてきたのに対して首を小さく傾げる
バレないっちゃバレないけど、確認されそうだなぁ


「つか、お前ら家で今の会話してこいよ。家一緒だろうが」


そんな俺らの様子を見て大地が呆れた声で言ってきた。


いや、一緒なんだけどね??



「だって千春起きないんだもん」

「起きれないんですもの。」


名前呼んでも踏んづけても馬乗りしても唸るだけ
しまいには、俺まで遅刻犯にしようと布団の中に引き摺り込むというクズ具合


「一家に一台、大地が欲しいわぁ」

「えー、俺は別に大地要らねえわ。」

「俺に拒否権はないの!?俺もやだよこんな面倒な双子!」


千春がしらーっとしながら言ったのに対して大地が憤慨してる
仲良いんだか悪いんだかこの二人は…
てか面倒って失礼だなぁ!


「顔には自信ありますよ?どうですか?」

「いでで」


千春の顔を引っ張って大地に「今ならお得ですよ!」と売りつける
そうだな、セールスポイントは、一緒に歩いてるだけで女の子が寄ってきます!とか?


「この冷めた目と色っぽい唇!ポイント高いですよ!」

「いや、俺こんなでかい男いらん。どうせなら女の子がいい。」

「それなら、春介女装させたらいけんじゃね?結構可愛いよこいつ。あげねえけど。」


今度は俺が売りつけられる番かよ
前髪を真ん中でパカッとわけられ、俺の手を俺の口元に引っ張られる
ぶりっこポーズですね


「・・・なんで可愛いって知ってんの?」

「前に女子の制服借りた」


大地のすげえドン引きした顔をみて爆笑する俺ら
えーでも俺似合うのにな。実際。


「お前らって双子なのにタイプ全然違うよな。それなのに仲良いし。なんで?」

「そんなの俺が一番聞きてーよ。」

「俺もー。」


一緒のが嫌だったからかな?
喧嘩になるし。


千春はかっこいい系で、
俺はきれい系ってよく言われてた。

部品一つ一つは似てるんだけど、完璧一緒てわけでもない。
とにかく雰囲気は真逆だ。


「春介もなんで大地の事なんか好んでんの?」

「事なんかってひどくね?」

「え、別に好きじゃないよ」

「いやいやいや春介君」


そんな事を談笑?してたら、ちょうど担任が入ってきた
大地が俺と千春に威嚇してからしぶしぶ自分の席に戻る
千春は飄々とした顔してる。

んー、二人の様子見てると大地が犬で、千春は猫だな。完全に。
俺が二人の飼い主。やったぜ。


先生が号令をして、ありきたりな事をツラツラとしゃべり始める
受験だから気を引き締めろよとか、部活も最後だから本気でやれよとか、そんなこと。

俺部活やってないしなぁ…もちろん千春も。
千春は後ろの席だから何してるかわからないけど、たぶん窓の外ぼーって眺めてそう。


先生が黒板に何か書き始めた隙に後ろを振り向く

すると、「ん?」と眉だけ動かした千春
それでもジッと見てたらなんだよ、と言いたげに俺の前髪を払ってきた


明日の誕プレ喜んでくれるかなぁ。
でも俺と千春全然タイプちげーしなぁー。
いっつも、めっちゃ悩みに悩んで決めてる。


好みはしってるけど、それでも本気で喜んでもらいたいから、千春が一番欲しいものを探り当てなきゃいけない。
きっと千春も同じ気持ちなんだろうな。



ーーー・・・






春休み明けテスト終了後。

お昼休み始まりのチャイムがなって、伸びをしてると前の席のヤツが沈んでるのが目に入ってきた。

わかりやっす



「大地どうだった?」


その様子を見て明らかに楽しみながら話しかける千春
Sいなあ。



「うるせえうるせえうるせえ」

「そんな落ち込むことないじゃん。中間とか期末よりは軽いテストだし。」

「副顧問が、古文・・・・」


ああ、部活ならではの事情だね
それは知らんわ


「ねえそんな事よりごはん買いいこー、購買」

「…俺行きたくねぇ。」

「あー。」


そうだよな、千春俺よりも人混み嫌いだしなあ。
とか言いつつついてきてくれるんだけどね、千春は。


「俺は今傷心中なんだけど。」


机につっぷして、腕の中でモゴモゴしゃべってる大地


「もー、大地はわがままだなあ…。」

「え、千春は?」


だいたいテストくらいでそんな・・・ハッ、そういや今年受験だやばいなこれ。
呼び出しされたらどうしよう。


「春介いきなり焦った顔するのやめて。俺すげえビビんだけど。」

「なんで大地にまで移ってんだよ。春介、終わったことはもうどうしようもねーんだから忘れろ?早く飯にしようぜ」


俺の背中に引っ付いてきて、よいしょよいしょと俺を運び始める千春
うわー、千春男前だ…!
いつの間にかそんな子に育ったの…!



「何食いたいの?」

「エビカツパン」

「あそこらへん1番混むじゃねえか…。」


うんざりしてる千春に「やっぱり一緒行ってくれるんだね」と笑うと「別に」と照れ隠しする千春 可愛い可愛い。


そしてそのまま何か忘れてる気するなぁ、とか思いながら教室を出てった



「待って!!!俺を置いてかないで!!!」



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