高校生の時の(冬馬×快)です。

※冬馬目線







中学になって、あるヤツとよくつるむようになった

そいつは、パッと見ただの根暗オタク
おどおどして、基本的に人とコミュニケーションを取りたくないようなそんな奴だった

俺みたいな人間がなんでこいつと一緒にいたいなんて思ったのか、中一の俺に聞いてみたい

でも、後悔なんて言葉は全く生まれたことはない
そいつはそんくらい面白くて、お人よしだった


けれども、気づけばそいつは外見が見間違えていった
人間とは単純なもので、綺麗なものに集まってくる

俺が、先に見つけたのに

そんな子供みたいな気持ちを自分が持っていたことに驚いた

今も、その気持ちは変わりそうにない



「あー、将来どうしよう俺。」


そいつがそんなネガティブなことを呟いたのは16の時
俺が雑誌を読んで寛いでいるとき、そいつが突然そう言ってきた


「なに、お前がそんな現実的なこと言うなんて珍しいね」


少しだけおかしくて笑う
いつもいつも非現実的な事しか言わない奴
中学からそんなやつで、外見は変わっても内面は今でも変わらない
男同士の恋愛が好きって、なんだよ
男の俺からしてみたら吐き気しかしない


「大学とか?そういう系?」

「ううん」

…将来って勉強の話じゃないのかよ


「じゃあ、何。」

快の顔を見てみると、携帯を手に持ったまま何やら思案顔
色白で綺麗な顔が珍しく難しい顔をしていた

…いや、綺麗って別に一般的に見たらだから。
俺の方が整ってるけど。


「・・・。」


黙ってるから仕方なく体を起こし快の隣に座ってやる
握りしめてる携帯を見てみると、女からたくさんのメールが来ていたみたいで。


「誰から?」

「いろんな人。俺の知らない人もいる」


こいつの性格と外見上、虐められてることはない。俺がいるし。

…ということは、いろんな女からの接近メールか。
アホらし。


「無視すりゃいいじゃん。お前、いちいち返すとか馬鹿なの。」


そういうお人よしのところ、直らないのか。
女はお前の外しか見てないの、気づかないわけ?


「俺さ、16なのに一回も恋愛してないんだよ。お前はもうすでに色々経験済みで、何も心配は要らないだろうけど」

女の事なんて、何一つ知らない。と快が嘆き始めた

…別に知らなくていいだろ、と思うのはツレとしはどうなのか。一応それらしいことを応えなきゃなのか。


「なるようになるんじゃねえの。」

「いや、ならないから。俺もそう思ってたけど」


は?なんで過去形?
そしてなんで腕に顔を埋める



「なるようになりかけたことでもあんの?」

「・・・・。」


黙りやがった。


「そういう無言スルー一番困るからやめろ。Yes or Noで答えろカス」


普通にイラついて思い切り叩いてしまった
それに「いってーー!!」と叫ぶ快

くそ、なにムキになってんだよ俺


「冬馬笑いそうだから嫌だ。」

「は?てことは、そういうことあったの?」


いつだよ。

結果を知りたいというのに、こいつは唇を尖らせて黙り込むだけ


「笑わないから」


むしろ俺自身笑えそうにない
なにをこんなに動揺してんだって俺に聞きたい 聞いてもわからなそうだけど

チラリ、とまるで怒られている子供が母親の機嫌を伺うように快が俺を見上げた


「・・・」


しかし何故か目を見開いた快


「…なんだよ」


なににびっくりしてんの、お前


「冬馬、具合でも悪いの?」

「はあ?なんでだよ」


顔色わりいのか?
そう思って携帯をかざし顔を見ようとするが暗くて見えない

ただ、頬の筋肉が死んだように動かなかった


「……すげえ変な顔してた」

「お前の方が変な顔してるから安心しろ」


…ちがうこんな話をしたいわけじゃない


「それで回答は?」

「……うん」


・・・どっちの うん だよ。
なに、つまり前に女と何かあったわけ?


「…なにしたんだよ」

「別に…押し倒されただけ」

「誰に」


思わず強い口調になってしまって舌打ちする
だからなに熱くなってんだよ俺


「隣のクラスの堀内さん」

堀内
ああ、あのクソビッチ


「ふーん。それで?」


苛立ちは全身に広がり床への指のタッチが煩くなる
快はなんで俺がこんなに苛立ってるのかもわからずおどおどしているけれど

俺だってわかんねーよ


「…俺、キス迫られて、だけどさ、なんか俺すげえ怖くて、ぶっちゃけそういうのに興味ないし、押し返して逃げたんだ」

おしかえしてにげた

その言葉が頭の中で反復される


快は「笑たければ笑えよ」とまた膝に顔を埋めている

普段の俺だったら、馬鹿笑いしてこいつを間抜け呼ばわりをしていたと思う。けれど、今の俺は完全に普段では無くなっていた

こんなにも安堵したことはあっただろうか、と思うくらい全身から力が抜ける


口から洩れた「へえ」という声が、自分で引くくらい弾んでいた


「冬馬ってさ…いつ、その…そういう…」


馬鹿みたいに顔を真っ赤にしながら俺に尋ねる快

お前はいつまでもそのままでいいと思うのがおかしい事なんだろうけど、実際そう思っている。


「…いつだっけな。」


今では顔も名前も思い出せない女の存在が頭を過る
けれど、これっぽっちも興味がないことだから答える気にもなれなかった。

俺の過去は価値のないものばっか


「…快は一生そのままな気がするわ」

「うっ、うるさいなあ!!」


俺の言葉に本気で恥ずかしがる快
座っている俺の太ももを何度も何度も叩いてきてだいぶウザいけど、それを愛しいと感じてしまっている


…愛しいだってさ。ウケんだけど。


自分自身にツッコミをしながらも、否定はできない。俺が他人に抱いたことのない感情をこいつは俺に生ませる


はー、これじゃまるで俺が恋してるみたいじゃん。すっげー嫌なんだけど。

しかし考えてみればみるほど、冗談半分で自分に問いかけた質問があまりにも的を得ていて困る

さっきの苛立ちも、この安堵も、何も変わらないでほしいと思うのも、愛しさも、すべてこれが原因だったら。

………いや、そんな馬鹿なことが起きるわけがない


「どうした冬馬」


俺があまりにもボーとしていたせいか、快が首を傾げた

お前がいままで縁のなかった女の存在をチラつかせたから俺はいま馬鹿みてーに考えてんだよ


「…別に」

「やっぱお前具合悪い?」


そっけない俺に眉を寄せる快
そんなに俺顔変かよ


「快のせいで具合悪くなったかも」

「えっなんで!?」

冗談で言ったのに本気で驚く快に笑う
騙されやす過ぎ
まあそういうところも嫌いじゃないんだけど

いや、むしろ・・・


「…なあ、快ってさ、まだ恋したことないんだよな?」

ただの確認だけど、俺自身の事を確認したい
こんな中学生みたいな話したくねーけど

「うるさいな…無いって言ってんじゃん。」

すごく嫌そうに、眉をしかめながらそう言ってきた快
あー、その顔。
俺お前のその顔、すごく好きなんだわ。

それに気を良くした俺はまだ質問を続ける


「んじゃあ、チューもまだなんだ?」

「っな、そ、んなのおまえ、聞かなくてもわかんじゃん…」


顔をわざと近くしながら聞いたら背けられた
ふーん、まあ、知ってるけど言わせたんだよ。


「なあ、そろそろ経験しとかないとやばくね」

「だから、さっきからそう言って…」


言葉が止まった快。理由はたぶん、俺の顔が近かったから。


瞬きをする瞬間の音が聞こえそうなくらいの近さ
それに驚いたのか、快は目を見開いた


「な、なに…」


笑っちゃうくらい気の抜けてる声
どんだけビビってるわけ


その間抜け面が面白すぎて吹き出しそうになるのを我慢しながら、頬に手を添えてゆっくりと唇をなぞってやった

俺の行動に戸惑っているのか石のように固まる快


「ほら、快君の大好きなシーンだよ」

「俺がされても嬉しくねえし!」


まるで猫のように威嚇する快が普通に可愛いと思う。
女には一生わからないことだろうね


「俺が教えてあげるのに。予行練習に」


キスを。


そう言った俺に、余計固まってしまった快
うわあ、すごい馬鹿面


「ほらさ、最近快もモテてるんだし、知っといた方がいいんじゃない」

まあ一生他人にさせる気はないけれど。

完全に自分の感情に気づいてしまってこの際他の事がどうでもよくなる。


そうだよ、俺はこいつに、

完璧惚れてる。



「なあ、恥ずかしい思いしたくないだろ?」


こうやって、相手が逃げられないようにしていくのは自分でもクソな性格してると思うよ

そんな俺に見事騙されるこいつもどうかと思うけどさ


「む、無理だろそんなの…」


僅かに頭を横に振る快

無理?それはキスが?それとも俺と?


「快しょっちゅう男同士のキス見て喜んでんじゃん。」

「だからっ、自分とみてるとではわけが違うの!!」


真っ赤になりながら否定する快
逃げようとしてるのか、グイグイと俺の胸板を押している

全然力が入っていないから、全然押し返されないけど。
女は押し返せたんじゃなかったっけ。


「じゃあ、知ってんの?キスの仕方。」


いい加減弱弱しい手がうざったくて握る
俺の質問に慌てる快


「そんなの唇に唇重ねればいいだけじゃん」

「ずいぶん簡単そうに言うね?やってみてよ」


ニコリと笑った俺に絶句する快君。はは、楽しい楽しい。


「俺目つぶっててやるからさ。」

「ちょっ!なんで俺がやるていに…!」

「はやくー。」


こいつは押しに弱い
そう知っているから俺はわざと目をつぶってスタンバイをしてやる

逃げたらどうなるか知らないけど



「ほ、本気でやらないとだめ?」

「うん。」


そう聞いてる時点で、快の負けだと思う。
薄目を開けたいところだけれど、バレたら絶対やってこないだろうから我慢

そうしていると、肩に手が乗っかった


「絶対に、目、開けるなよ」


まんまと引っかかるあたり、本当お人よしでバカ。
だから女に押し倒されたり、強行手段だされんだよ。


「はいはい。」



そう返事すると、手に力が入るのがわかった
唇にあたる微かな吐息


今目開いたら面白いことになりそうだな、と思っていると、本当に微かに、何かが当たった


・・・は?



「あーーーー!!!なんで俺こんなことしてるんだろーー!!!」


気配が遠ざかったと思いきや、そう叫んでる快

うそだろ。


「お前、まさか今キスしたわけ?」

「したよっ!!ねえなんで俺しちゃったんだろ!!?」


泣きそうになっている快を見て唖然
全然わかんなかったんだけど感触とか、実感とか。


「へたくそ。」


気づいたら快に向かってそう言っていた
俺の言葉に荒ぶっていた快がピタリと静止する



「全然わかってないよな、快」


暴れる前に、さっさと床に組み敷く
両手は俺の手の中


何が起こったのかわからないような、そんなきょとんとした顔で俺を見上げてきた

俺とは違って何もいじっていない黒髪がカーペットに散らばる


「あ、あの…、今、俺どうなってる?」

「・・俺に押し倒されてるね。んでもってこれからプロによるキス講座が始まるから。」



もちろん快に拒否権はないよ。



散らばってる髪を弄びながら笑顔でそう告げると、あからさまに顔をひきつらせた快


あーあ、可哀想な快
俺に目をつけられちゃうなんて。


自身が悪人でありながら、俺の下で怯えている快に同情する


それでも俺は、
こいつを他にやるつもりなんて一切ないけど。





(このあと冬馬のディープキス炸裂に快がビビって舌噛みますが割愛)