明日またどこかで笑え







「………え、」



反射的に出た声は、少し間抜けな声だった
そんな俺に鹿野さんが苦笑する

軽く伏せられた目が、綺麗だな、と他人事のように思ってしまった


「まあ、そういうことだよ。一応報告をな。」

「…は、はぁ……」


他に何か声を掛けれたら良かったけれど、そのとき、不思議と余裕がなかった。頭が真っ白になるとはこういうことなのかもしれない。


俺らは本当にただの隣人だった。
ほぼ他人に等しい

そんな関係だったのに、なぜこんなにも悲しいんだろうか。



カチャカチャとフォークと皿がぶつかる音
静かな音楽


高級そうな食事と、
いつもと違う鹿野さん



……あの家に戻りたい。

ふとそう思った。






ーーーーー・・・





考えてみれば、


仕事関係の人が来たりとか、
部屋の荷物が減ってたとか、


予兆はあったんだ。

彼がいなくなるという。




「……料理本、無駄になっちゃうなぁ」


せっかく買ったのに。


せっかく鹿野さんの素顔を見ることができたのに。
名前呼ばれたのに。



どうして一日で終わっちゃうんだろう



彼の部屋と同じ間取りの部屋を見渡す



あぁ、寂しいなぁ。
…うん。寂しい。


「…鹿野さん。」


特に理由もなく、名前を呼んでみる




………あと一週間で、この名前を呼ぶことも無くなるのか



そう思ったら、不思議と泣きそうになった






(……この気持ちの名前は、何。)



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