憧れのまま手に残った体温




掴まれた腕が妙に敏感になっている
なんか、ゾワゾワするというか熱いというか。

…鹿野さん、手大きいんだな



「次、飯行こう」

「と、突然ですね…。あ、とこれコーヒーです」

「……」


手渡したら呆れた目で見られた
なんだその目は


「お前、普通俺がカットされてて暇な間にやるもんだろ…」

「え、そうなんですか?わがまま言わないでくださいよ」


まあ、飲めれば良いじゃないですか。と鹿野さんにいうと、「お前強引なところあるよな」と言われた。今さらでしょ。


「…サンキュ」と言いながらコーヒーを飲む鹿野さん

御礼を言われるとは…そんな律儀なところもあるのかよ鹿野さんは。ギャップ。



「飯は俺が奢ってやるよ」

「え、いや、」

「コーヒーの礼とここに連れてきてくれた礼。あと今までの色々」


そんな、別に俺が好きでやってただけだし
そう言おうと口を開いたら「奢らせてくれよ」と言い方を変えられてしまった。


……今日の鹿野さんずるい。
心底そう思った。



黙って見上げると「挑発的な目だな」と笑われた
もともとこういう目なんですよ。



「ここら辺だと、俺行ったことある店ひとつしかねーや。」

「え、鹿野さんってここらの人じゃなかったんですか。」

「いや。本当は都内在住」


その言葉にギョッとする。え、どういうこと?職場がってこと?家が?


「どうしてこんなところに…」

「色々」


その色々にいったい何が隠されてるんだ。



「俺って面倒くさがりの癖に面倒くさい事やってんだよ」


どこか、上の空でそう呟く鹿野さん
今の彼は何を考えているかわからない。

姿が変わってから、まるで別人だ。


「まあ、俺の事なんかつまんねーだろ。」

そう言って話題を変えようとする鹿野さん


…その逆なんだけどな


微かにそう思ってる自分がいた。





いつのまにか離された腕が妙に涼しい



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